サンデー毎日2013年3月24日号 黄砂で変異 「発がん性」PM2.5の正体 環境省も把握せず

2013年3月16日

サンデー毎日2013年3月24日号 黄砂で変異 「発がん性」PM2.5の正体 環境省も把握せず

黄砂の季節である。しかし、砂と混ざり合ったPM2・5に含まれる汚染物質が、より凶悪な発がん性物質に〃変異”していたという。環壌省も把握していない恐るべき物質の正体を探った。

(中略)

「PM2・5は、肺胞(肺の中で酸素、二酸化炭素の交換を行う器官)に到達することで呼吸器系が影響を受けるだけでなく、心筋梗そく塞や不整脈が増える可能性が欧米では指摘されています。しかし、日本人に関するデータは知られていない。血管内で血液が固まり、血流が途絶してしまう心筋梗塞は、日本人の場合、白人ほど多くない。日本人への影響ははっきり分からない」(PM2・5に詳しい「ナビタスクリニック東中野」久住英二医師)

(中略)

「黄砂表面が触媒になる可能性」

研究によって驚情の事実を突き止めたのは、金沢大学の早川和一教授(環境衛生分析化学)である。早川教授によると、問題の発がん性物質はニトロ化合物のNPAH(二トロ多環芳香族炭化水素)。石炭や石油など化石燃料の燃焼で生成されるPAH(多環芳香族炭化水素)が窒素酸化物と反応してできる物質であり、PAHは工場や家庭用ボイラーの燃料として中国で広く使用される石炭の燃焼で発生する。

PAHは元々、PM2・5の成分として国立環境研究所などで観測されており、PM2・5と肺がんを関連付ける物質として知られる。それが毒性、発がん性がより強くなるニトロ化合物・NPAHに変異するというのである。

早川教授は検出機器を独自開発し、2004年から能登半島で開始した観測で初めてPAHとNPAHを検出した。同時に中国や韓国、ロシアといった環日本海諸国の研究者と連携して、環境中のNPAH生成のメカニズムを探ってきた。

「NPAHはPAHと同じく、中国でも生成されていることが観測によって確認されています。大気汚染が深刻な北京市に加えて、炭鉱のある撫順市などで濃度が高い。しかも中国で発生したNPAHが日本に飛来する際は、より濃度が高まる時があることが判明しました。大気汚染がほとんどない能登半島先端を観測地点としているため、国内の影響は考えられない」

中国では暖房用ボイラーでの石炭燃焼は使用期間が厳密に定められ、10月中旬~4月中旬とされる。概ね3~5月の日本の黄砂シーズンとも重なる。早川教授がNPAH観測したのもこの時期だ。

早川教授によると、黄砂現象とNPAH発生のメカニズムは未解明の部分が多いというものの、観測結果からは黄砂とPM2・5が混じって運ばれる途中でNPAHが生成されていることが確認されている。

「鉱物である黄砂の表面が触媒となっている可能性が高い」(早川教授)

一般の大気中NPAH濃度は極めて低いが、高濃度ぱくろのNPAHに長期間曝露されれば、「肺がんリスクがさらに高まるおそれがある」と早川教授は指摘する。

能登半島で観測を始めた04年以降、「徐々にではあるが、NPAHの原料となるPAHの濃度は上昇する傾向にある」という。

また、早川教授はNPAH以外にも複数の化合物が飛来中に生成される事実も突き止めた。NPAH関連化合物であるキノン体、水酸化体だ。前者は環境ホルモンに似た作用を示し、後者は活性酸素を作って動脈ぜんそく硬化や喘息、アレルギー反応を引き起こすリスクを高める。今年の黄砂、まさに〃凶悪物質”の集合体、といえるのではないか。

(後略)

本誌・徳丸威一郎