5月26日 Tウオッチ設立10周年記念シンポジウム(5/11改訂)
開催案内
有害化学物質削減ネットワーク設立10周年記念シンポジウム PRTRのリスクコミュニケーションの10年と今後 |
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日時 2012年5月26日(土) 13:30~17:00 場所 日本青年館 中ホール 東京都新宿区市霞ヶ丘町7 番1 号 Tel:03-3401-0101 交通:JR 千駄ヶ谷駅・信濃町駅から徒歩9 分 /地下鉄外苑前駅・国立競技場駅から徒歩7 分 |
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プログラム 1.基調講演「我が国のPRTR の10 年」(仮題) 浦野紘平(横浜国立大学環境情報院特任教授) 2.パネルディスカッション 「PRTR のリスクコミュニケーションの10 年と今後あるべき方向を探る。」 コーディネータ: 寺田良一(明治大学教授) パネラー 1)環境省 早水輝好(環境省環境保健部環境安全課 課長) 2)(独)製品評価技術基盤機構 木幡隆男 ((独)製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター リスク管理課 専門官) 3)企業(交渉中) 4)自治体 吉澤明子 (横浜市 環境創造局 環境管理課) 5)大学 浦野紘平 (横浜国立大学・エコケミストリー研究会代表) 6)NGO 中地重晴 (有害化学物質削減ネットワーク理事長) 7)地域団体 中山育美 (NPO法人かながわ環境カウンセラー協議会) |
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開催趣旨 2002 年に発足した有害化学物質削減ネットワークは皆様のご支援のおかげにより、本年をもって設立10 周年を迎えることになりました。同様に我が国のPRTR 情報の公開も10 回を重ねています。この間、T ウォッチは検索可能なPRTR データーベースをウェブ上で提供し、さらに全国各地で地域セミナーを開催してまいりました。また行政や事業者等においてもPRTR 情報の提供方法も様々な工夫や加工がされるようになり、初期と比べると格段に市民に利用されやすくなっています。 さて今日PRTR に対する市民の認知や理解は向上しているといえるのでしょうか? そこでこれまでPRTR のリスクコミュニケーションを実践してきた主要な関係者を交え、この10 年のリスクコミュニケーションを振り返り、今後あるべき方向を探るシンポジウムを開催します。 |
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資料代 500円 主催 特定非営利活動法人 有害化学物質削減ネットワーク(Tウォッチ) 申込及び連絡先 〒136-0071東京都江東区亀戸7-10-1 Zビル4F TEL&FAX 03−5836−4359 URL http://www.toxwatch.net/ E‐mail comeon@toxwatch.net 定員:200 名(当日参加も可能ですが、人数把握の為、参加希望者はできるだけ事前申込してください)★このセミナーは2012年度地球環境基金の活動助成を受けています。 |
開催報告
T ウォッチ設立10周年記念シンポジウム
日時 2012年5月26日(日)13:30~17:00
場所 日本青年館
2012 年5 月26 日、日本青年館において、T ウォッチ設立10 周年記念シンポジウム「PRTR のリスクコミュニケーションの10 年と今後」を開催しました。
基調講演:日本のPRTR 制度の10 年と今後まず、基調講演として横浜国立大学名誉教授の浦野紘平さんに、「日本のPRTR 制度の10 年と今後」についてお話いただきました。
PRTR 制度が導入される前には、事業者からの排出量についての情報が全くありませんでしたが、最近では情報提供が充実し、リスクコミュニケーションの催し物も多くなりました。しかし、現状は、リスクコミュニケーションの入り口に立ったにすぎず、効率的にリスクの高い物質や、地域を減らすためにPRTR 情報を活用できてこそ、リスクコミュニケーションができているといえるのではないかという指摘がありました。
写真シンポジウムの様子
たとえば、平成13 年から22 年までの届出排出量・移動量の経年変化を見ると、平成21 年には、全体で30%減っています。しかし、実は排出量の多いトルエンとキシレンが全体の削減量の4割を占めています。しかも、トルエンとキシレンが削減されたのは、VOC の総量規制が導入されたからで、PRTR を導入したことによる成果とはいえません。また、内訳を見ていくと、エチルベンゼンやホウ素化合物などのように増えているものもあり、そういった個別の物質に注目をしてコミュニケーションをはかることできますが、そのようなことは実際には行われていません。
さらに、浦野さんが代表を務めるエコケミストリー研究会では、毒性重み付けのための係数を導入し、化学物質の排出量に掛けあわせることで、毒性の重み付けをした排出量を算出して情報提供を行っています。重み付けをした届出排出量の上位都道府県と原因物質の変化によってもいろいろなことを読み取ることができます。重み付けした届出排出量に大きな変化が生じた自治体では、変化の要因となった物質について、市民と事業者が協働してリスク削減に取り組むということもできます。
日本のPRTR 制度事体にも、課題が多く残されているという問題も提起もなされました。現在の制度では、事業者に取扱量の届出義務がなく、特に事故や災害時のリスクに対応することができません。裾切り以下の事業所からの排出・移動量の推計精度が低い、家庭内やゴミなど、届出外業種からの移動量の推計がない、届出義務があるのに届出をおこなっていない事業所が多くあるなど、PRTR データの精度にも問題があります。また、地方自治体に事業者への立ち入りや指導の権限がなく、届出の妥当性もチェックできないため、責任を感じにくい仕組みになっています。PRTR制度の活用という意味では、上記のようにPRTR
のデータを解析した上で、事業者と市民が協働して、リスクを削減していくというリスクコミュニケーションにはつながっていないという現状を変えるために、PRTR データの活用の事例集を作るなど、市民や自治体に、もっと活用してもらえるような対策が必要ではないかという提案がなされました。
パネルディスカッション:PRTR のリスクコミュニケーションの10 年と今後あるべき方向を探るシンポジウムの後半には、Tウォッチ理事・明治大学教授の寺田良一さんをコーディネーターとして、PRTR のリスクコミュニケーションの10年を振り返り、今後のあるべき方向を探ることをテーマに、浦野先生を含め、6 名のパネリストとディスカッションを行いました。
パネリストからの報告
環境省環境保健部環境安全課課長の早水輝好さんからは、PRTR インフォメーション広場というウェブサイト、市民ガイドブック、PRTR データ地図上表示システムなど、現在環境省がPRTRに行っている情報提供ツールや、化学物質と環境円卓会議など化学物質全般に関するリスクコミュニケーション推進のための施策についての紹介がありました。国としては、リスクコミュニケーションは一定程度定着したということで、今後は各事業の中でリスクコミュニケーションを取り込んでいくことになるそうです。また、今後は地域におけるリスクコミュニケーションが重要になると強調されていました。
独立行政法人製品評価技術基盤機構化学物質管理センター(NITE)リスク課課長の木幡隆男さんからは、NITE によるPRTR マップや自治体の化学物質管理情報のポータルページなどウェブサイトによる情報提供に加え、講師の派遣、展示会での出展などを通じて、リスクコミュニケーションの促進に関する取組みが紹介されました。
横浜市環境創造局環境管理課吉澤明子さんとNPO 法人かながわ環境カウンセラー協議会中山育美さんには、地域でのリスクコミュニケーションの事例をご紹介していただきました。横浜市では平成15 年からリスクコミュニケーションに取組み、子育て支援拠点や工場夜景クルーズと一緒に市民講座を開催したり、イベントにも積極的に参加することで、リスクコミュニケーションの土台を作り、支援を行っているそうです。かながわ環境カウンセラー協議会では、環境報告書学習会と事業者との対話・見学という2 部構成の「環境ダイアログ」を主催し、地域のリスクを減らそうとしています。このようなイベントは事業者にとって簡単なことではないかもしれませんが、「環境ダイアログ」での指摘が翌年の環境報告書に反映されていたこともあり、事業者にメリットがあることを実感されたそうです。吉澤さんも、中山さんも、リスクコミュニケーションの大切さを市民や事業者に理解してもらうことが難しく、リスクコミュニケーションの普及のために、日ごろの取組みのなかで苦労されていることがよくわかりました。
T ウォッチの中地重晴代表が、T ウォッチのリスクコミュニケーションの取り組みを紹介しました。
パネリスト・会場とのディスカッションPRTR 制度の在り方や、リスクコミュニケーションについてのパネルディスカッションでは、国や自治体等では、PRTR 制度の導入当時よりも予算も人員も少なくなる中で、リスクコミュニケーション関連の事業を実施しなければならないという苦しい現状が明らかにされました。浦野さんからは、福島第一原発の事故で「原子力ムラ」が話題となりましたが、PRTR やリスクコミュニケーションについても、いつのまにか専門家だけの中で閉じた「PRTR ムラ」や「リスクコミュニケーションムラ」となってしまっていたのではないか、市民の関心からずれた制度となっていたのではないかと、これまでのPRTR 制度のあり方を反省し、制度導入から10 年を迎えた今、改めて制度の意義やあり方を見直さなければいけないという問題提起がなされました。環境省の早水さんからは、PRTR 制度で取扱量の届出を義務付けるかどうかは、PRTR 制度の目的を事故対策にまで広げていくかどうかという問題であろうという発言がありました。会場からは、リスクコミュニケーションというは、あくまでも事業者が主体となって行うものであり、自治体そのものが実施するのではなく、自治体の役割は、事業者がリスクコミュニケーションを実施するのを支援するというものではないかという意見がありました。また、市民は家庭の中にどれほど有害な化学物質が使われているのか驚くほど知らない状態であり、専門家の人には、どのように市民が企業と話し合えるのかぜひ助けてほしいという意見もありました。
T ウォッチとしても、環境省がPRTR データについてホームページなどで情報提供をするようになった今、PRTR データをどのような形で活用していくか、ひいては、市民の関心に沿った形で、有害化学物質の削減に向けてどのような活動を展開できるかが大きな課題であることを改めて考えさせられるシンポジウムとなりました。(Tウォッチ理事橘高真佐美)
日時 2012年5月26日(日)13:30~17:00
場所 日本青年館
2012 年5 月26 日、日本青年館において、T ウォッチ設立10 周年記念シンポジウム「PRTR のリスクコミュニケーションの10 年と今後」を開催しました。
基調講演:日本のPRTR 制度の10 年と今後まず、基調講演として横浜国立大学名誉教授の浦野紘平さんに、「日本のPRTR 制度の10 年と今後」についてお話いただきました。
PRTR 制度が導入される前には、事業者からの排出量についての情報が全くありませんでしたが、最近では情報提供が充実し、リスクコミュニケーションの催し物も多くなりました。しかし、現状は、リスクコミュニケーションの入り口に立ったにすぎず、効率的にリスクの高い物質や、地域を減らすためにPRTR 情報を活用できてこそ、リスクコミュニケーションができているといえるのではないかという指摘がありました。
写真シンポジウムの様子
たとえば、平成13 年から22 年までの届出排出量・移動量の経年変化を見ると、平成21 年には、全体で30%減っています。しかし、実は排出量の多いトルエンとキシレンが全体の削減量の4割を占めています。しかも、トルエンとキシレンが削減されたのは、VOC の総量規制が導入されたからで、PRTR を導入したことによる成果とはいえません。また、内訳を見ていくと、エチルベンゼンやホウ素化合物などのように増えているものもあり、そういった個別の物質に注目をしてコミュニケーションをはかることできますが、そのようなことは実際には行われていません。
さらに、浦野さんが代表を務めるエコケミストリー研究会では、毒性重み付けのための係数を導入し、化学物質の排出量に掛けあわせることで、毒性の重み付けをした排出量を算出して情報提供を行っています。重み付けをした届出排出量の上位都道府県と原因物質の変化によってもいろいろなことを読み取ることができます。重み付けした届出排出量に大きな変化が生じた自治体では、変化の要因となった物質について、市民と事業者が協働してリスク削減に取り組むということもできます。
日本のPRTR 制度事体にも、課題が多く残されているという問題も提起もなされました。現在の制度では、事業者に取扱量の届出義務がなく、特に事故や災害時のリスクに対応することができません。裾切り以下の事業所からの排出・移動量の推計精度が低い、家庭内やゴミなど、届出外業種からの移動量の推計がない、届出義務があるのに届出をおこなっていない事業所が多くあるなど、PRTR データの精度にも問題があります。また、地方自治体に事業者への立ち入りや指導の権限がなく、届出の妥当性もチェックできないため、責任を感じにくい仕組みになっています。PRTR制度の活用という意味では、上記のようにPRTR
のデータを解析した上で、事業者と市民が協働して、リスクを削減していくというリスクコミュニケーションにはつながっていないという現状を変えるために、PRTR データの活用の事例集を作るなど、市民や自治体に、もっと活用してもらえるような対策が必要ではないかという提案がなされました。
パネルディスカッション:PRTR のリスクコミュニケーションの10 年と今後あるべき方向を探るシンポジウムの後半には、Tウォッチ理事・明治大学教授の寺田良一さんをコーディネーターとして、PRTR のリスクコミュニケーションの10年を振り返り、今後のあるべき方向を探ることをテーマに、浦野先生を含め、6 名のパネリストとディスカッションを行いました。
パネリストからの報告
環境省環境保健部環境安全課課長の早水輝好さんからは、PRTR インフォメーション広場というウェブサイト、市民ガイドブック、PRTR データ地図上表示システムなど、現在環境省がPRTRに行っている情報提供ツールや、化学物質と環境円卓会議など化学物質全般に関するリスクコミュニケーション推進のための施策についての紹介がありました。国としては、リスクコミュニケーションは一定程度定着したということで、今後は各事業の中でリスクコミュニケーションを取り込んでいくことになるそうです。また、今後は地域におけるリスクコミュニケーションが重要になると強調されていました。
独立行政法人製品評価技術基盤機構化学物質管理センター(NITE)リスク課課長の木幡隆男さんからは、NITE によるPRTR マップや自治体の化学物質管理情報のポータルページなどウェブサイトによる情報提供に加え、講師の派遣、展示会での出展などを通じて、リスクコミュニケーションの促進に関する取組みが紹介されました。
横浜市環境創造局環境管理課吉澤明子さんとNPO 法人かながわ環境カウンセラー協議会中山育美さんには、地域でのリスクコミュニケーションの事例をご紹介していただきました。横浜市では平成15 年からリスクコミュニケーションに取組み、子育て支援拠点や工場夜景クルーズと一緒に市民講座を開催したり、イベントにも積極的に参加することで、リスクコミュニケーションの土台を作り、支援を行っているそうです。かながわ環境カウンセラー協議会では、環境報告書学習会と事業者との対話・見学という2 部構成の「環境ダイアログ」を主催し、地域のリスクを減らそうとしています。このようなイベントは事業者にとって簡単なことではないかもしれませんが、「環境ダイアログ」での指摘が翌年の環境報告書に反映されていたこともあり、事業者にメリットがあることを実感されたそうです。吉澤さんも、中山さんも、リスクコミュニケーションの大切さを市民や事業者に理解してもらうことが難しく、リスクコミュニケーションの普及のために、日ごろの取組みのなかで苦労されていることがよくわかりました。
T ウォッチの中地重晴代表が、T ウォッチのリスクコミュニケーションの取り組みを紹介しました。
パネリスト・会場とのディスカッションPRTR 制度の在り方や、リスクコミュニケーションについてのパネルディスカッションでは、国や自治体等では、PRTR 制度の導入当時よりも予算も人員も少なくなる中で、リスクコミュニケーション関連の事業を実施しなければならないという苦しい現状が明らかにされました。浦野さんからは、福島第一原発の事故で「原子力ムラ」が話題となりましたが、PRTR やリスクコミュニケーションについても、いつのまにか専門家だけの中で閉じた「PRTR ムラ」や「リスクコミュニケーションムラ」となってしまっていたのではないか、市民の関心からずれた制度となっていたのではないかと、これまでのPRTR 制度のあり方を反省し、制度導入から10 年を迎えた今、改めて制度の意義やあり方を見直さなければいけないという問題提起がなされました。環境省の早水さんからは、PRTR 制度で取扱量の届出を義務付けるかどうかは、PRTR 制度の目的を事故対策にまで広げていくかどうかという問題であろうという発言がありました。会場からは、リスクコミュニケーションというは、あくまでも事業者が主体となって行うものであり、自治体そのものが実施するのではなく、自治体の役割は、事業者がリスクコミュニケーションを実施するのを支援するというものではないかという意見がありました。また、市民は家庭の中にどれほど有害な化学物質が使われているのか驚くほど知らない状態であり、専門家の人には、どのように市民が企業と話し合えるのかぜひ助けてほしいという意見もありました。
T ウォッチとしても、環境省がPRTR データについてホームページなどで情報提供をするようになった今、PRTR データをどのような形で活用していくか、ひいては、市民の関心に沿った形で、有害化学物質の削減に向けてどのような活動を展開できるかが大きな課題であることを改めて考えさせられるシンポジウムとなりました。(Tウォッチ理事橘高真佐美)