2008年度分PRTR公表データについて
Tウオッチ理事長 中地重晴
はじめに
国は、2 月26 日に2008(平成20)年度のPRTRデータの集計公表を行いました。PRTR 制度(環境汚染物質排出移動登録)は、2008 年10 月政省令の改正が行われました。対象化学物質が562 物質と増加し、届出対象業種に医療業が追加され、改正された新制度に基づいて、本年4 月から排出量、移動量の推計、データの蓄積が開始されています。
PRTR データの集計公表は2001 年度分から8回目です。2008 年度分集計公表データでは、環境中に排出・移動された有害化学物質の量が大幅に減少しました。この原因は2008 年秋のリーマンショックに連動した経済不況の影響を受けて、日本全国で、全般的に工業生産量が大幅に減少したことに連動するものだと考えられます。
届出排出・移動量が大幅減少2008 年度分のPRTR 集計データでは、全国の事業者から届出のあった総排出・移動量は合計40万トンでした。届出総排出量は19.9 万トンで、昨年度から15.4%減少しました。その内訳は大気への排出が17.9 万トン(前年度比14.8%減)、公共
用水域への排出が9.7 千トン(同3.0%減)、土壌への排出380 トン(同8.6%増)、場内埋立てが1.0 万トン(同28.6%減)でした。環境中に排出される有害物質の約90%が、事業場から大気に排出されていることがわかります。場内埋立て量の減少率が高いです。
また、届出移動量の総量は20.1 万トンで昨年度から減少しました。内訳は廃棄物への移動が19.9 万トン(前年度比10%減)、下水道への移動が1,500 トン(同19%減)です。移動量の多くは廃棄物として事業所外で産業廃棄物として中間処理、又は最終処分されたもので、下水道に放流された有害物の量は少ないことがわかります。
2001 年度からの届出排出・移動量の経年変化を表1 に示します。来年度から、廃棄物の移動については、焼却などの中間処理か、埋立てか、処分方法の報告が義務付けられます。
08年 | 07年 | 06年 | 05年 | 04年 | 03年 | 02年 | 01年 | |
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総排出 | 199 | 234 | 245 | 259 | 270 | 291 | 290 | 314 |
大気 | 179 | 210 | 217 | 225 | 233 | 250 | 256 | 280 |
公共水域 | 9,7 | 10 | 11 | 11 | 11 | 13 | 12 | 13 |
場内土壌 | 0.38 | 0.35 | 0.14 | 0.23 | 0.26 | 0.25 | 0.30 | 0.30 |
場内埋立 | 10 | 14 | 18 | 22 | 25 | 27 | 22 | 20 |
総移動 | 201 | 223 | 225 | 231 | 230 | 240 | 217 | 213 |
廃棄物 | 199 | 221 | 223 | 228 | 227 | 236 | 214 | 219 |
下水道 | 1.5 | 2.7 | 2.3 | 2.7 | 3.0 | 3.1 | 3.0 | 4.0 |
届出対象外排出量は横ばい2008 年度の届出対象外排出量の推計値の合計は29.1 万トンで、昨年度から千トンしか減少していません。その内訳は届出対象業種から4.7 万トン(前年度比16%減)、届出対象外業種から9.5万トン(同4.3%増)、家庭から5.6 万トン(同19%増)、移動体から9.3 万トン(同6.1%減)です。
昨年度と比較すると、届出外排出量の推計値は対象業種では景気変動を受けて、大幅に減少しましたが、逆に届出対象外業種と家庭からの排出量が増加し、特に家庭からの排出量が19%と大幅に増加し、移動体は減少で、トータルで横ばいという結果になったようです。届出対象外排出量の推計値の経年変化を表2 に示します。家庭からの排出量では、界面活性剤とフロンの排出量が増加しています。
08年 | 07年 | 06年 | 05年 | 04年 | 03年 | 02年 | 01年 | |
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合計 | 291 | 292 | 315 | 348 | 357 | 342 | 589 | 585 |
対象業種 | 47 | 56 | 53 | 59 | 62 | 55 | 251 | 322 |
非対象業種 | 95 | 91 | 99 | 111 | 107 | 105 | 126 | 105 |
家庭 | 56 | 47 | 50 | 55 | 60 | 63 | 62 | 69 |
移動体 | 93 | 99 | 113 | 124 | 128 | 119 | 154 | 88 |
08年度の生産活動の低下の影響リーマンショックによって、どの程度日本企業の生産活動が低下したのか、生産高などの工業統計を調べてみました。アメリカ車の生産量が減少する中で、トヨタが世界一の自動車生産台数を誇るなど、最も成長著しかった自動車の生産台数でいうと、日本自動車工業会の発表では、日本国内では、2008 年度10,005,771 台で、前年比84.9%と15%も生産量が減少しています。
次に、電気機械生産統計では、出荷額は2008年度23,377,340 百万円で、前年度比85.3%と自動車の生産台数と同様に15%減少しました。日本鉄鋼連盟が公表している粗鋼生産量は、2008 年度10,550 万トンで、前年度より13.2%減少しています。
このように、2008 年度の工業生産は主な業種でおよそ15%減少しており、当然使用される原材料も15%減少し、環境への排出・移動量も連動して減少したと考えられます。総排出量の減少幅は、15.4%で工業生産高の落ち込みとほぼ同じです。
総移動量は10%と若干のずれがあります。化管法の目的は環境中に排出される有害化学物質の量を削減することにあり、そのために、事業者の自主管理を促進させる仕組みとして、PRTR 制度が実施されています。事業者から環境中に排出する有害物質の量を届出させ、公表することで、経年変化がわかり、排出量の削減に寄与すると考えられています。スソ切りのなくなった03 年度から07 年度までの5 年間で、24.3%総排出量は減少しましたが、毎年5%程度ずつ減少してきたのが、08 年度景気の低迷で、一挙に15%減少しました。事業者の排出削減努力よりも生産量の減少のほうが、影響力が大きいことが明らかになりました。
化管法のめざす事業者の自主管理、削減努力が行われているかどうかは、取扱量と排出量の関係や生産高と排出量の関係で見ていかないと、正当な評価が下せないことが08 年度の集計公表データでわかりました。
埼玉県や神奈川県、東京都など、独自の条例を持ち、小規模の事業者や対象外の化学物質についても報告義務を課している自治体の担当者から、「取扱量を条例で報告させているので、2008 年度分のデータでも、事業者の取組みが進み、取扱量の減少(生産の減少)以上に、排出量が減少した。」という報告を受けています。化学物質管理に関する条例を持つ自治体では、事業者の努力によって、有害化学物質の排出量が着実に減少しているようです。
それでは、条例を持たない自治体では、生産の減少に応じて、排出量が減少しただけなのか、検討する必要があります。
(2010年3月)