化学物質政策

「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ」SAICM

1. SAlCM(サイカム)とは?
正式には「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ」
(Strategic Approach to Internationa1 Chemical Management)と呼ばれ、「2020年までに化学物質が健康や環境への影響を最小とする方法で生産・使用される」ことを達成するために国連環境計画(UNEP)を中心に各国政府、関連各国連機関、産業界、NGO等が参加し、3年問をかけて2006年に策定された国際的取り組みです。
国際条約とは異なり拘束力はないものの、世界中の責任ある立場の人々や専門家などによって3年をかけて合意された国際的な約束であり、地球上から化学物質による悪影響をなくすという共通のゴールに向けて全世界がスタートラインに立った画期的な取組といえます。

2. SAlCMの概要
SAICMは次の3つの文書に基づき、各主体による取組が展開されることになっています。

(1)「国際的芯化学物質管理に関するドバイ宣言」
なぜいまSAICMが必要なのか、これからどのような点に留意して取組むのかといった基本的な認識や考え方を、各国の閣僚、政府代表団長、並びに市民社会及び民間部門の代表による宣言としてまとめたもの。以下のような内容を含む全30項目からなる。

  • 社会の化学物質管理の方法に根本的な改革が必要
  • ヨハネスブルグ実施計画の2020年目標を確認
  • 子供、胎児、脆弱な集団を保護・化学物質のライフサイクル全般にわたる情報及び知識を公衆に利用可能とする
  • 各国の政策、計画、国連機関の作業プログラムの中に、SAICMを統合させる
  • 全ての関係者の対応能力を強化する

(2)「包括的方針戦略」
SAICMを展開するにあたり共有すべき考え方や重要なポイント、進め方などを規定した中核的文書。

  1. 対象範囲:農薬、工業用化学品の生産から廃棄に至るライフサイクル全般を対象
  2. 目的
    1. リスク削減(不当な又は制御不可能なリスクをもたらす物質の製造・使用を中止、排出を最小化。その際に予防的取組方法を適切に適用)
    2. 知識と情報(化学物質のライフサイクルを通じた管理を可能とする知識と情報を、すべての利害関係者たちに入手可能とする)
    3. ガバナンス(化学物質管理のための包括的、効果的、透明で適切な国際的・国内的なメカニズムの確立)
    4. 能力向上及び技術協力(先進国・途上国間に広がりつつある化学物質管理における格差の是正)
    5. 不法な国際移動の防止(各国の対応強化と対処能力向上など)
  3. 財政的考慮:先進国の任意拠出による「SAICMクィックスタートプログラム」創設、二国問・多国問の開発援助プログラム活用など。
  4. 原則とアプローチ:リオ宣言等に記された原則とアプローチを再確認する
  5. 実施と進捗の評価:2020年までに国際化学物質管理会議を4回開催、必要に応じ、地域会合を開催

(3)「世界行動計画」
SAICMの目的を達成するために関係者がとりうる行動をまとめたガイダンス文書。包括的戦略方針の「目的」で示されたA~Eの作業領域別に合計273の行動項目をリストアップ。行動項目ごとに、「作業領域」、「活動内容」、「行動主体」、「目標/時間枠」、「進捗の指標」、「実施の側面」が順に示されている。各国は同様に国内版の行動計画をステークホルダー参加のもとで策定することが期待されています。

3. 日本におけるSAlCM
我が国では2006年4月にSAICM関係省庁連絡会議を設置し、環境省環境安全課を中心に「SAICM国内実施計画」が策定されることになりました。しかしこれは「包括的方針戦略」で示されている国内実施計画(*2)とは似て非なるものといえます。なぜなら、連絡会議資料によれば「実施計画に記載する具体的な取組は、原則として国の施策・事業等とする。」とその範囲を狭め、さらにステークホルダーの参画に関しては、「実施計画の策定過程で関係者との意見交換を開催するとともに、案を公表して国民の意見聴取を行う。」と、市民参画を否定しているからです。

(*2)「包括的方針戦略」22項「……SAICM国内実施計画は、関連した関係者の参加により、適切な場合には、既存の法令、ナショナルプロファイル、行動計画、関係者のイニシアティブと格差、優先順位、必要性と状況を考慮し策定することができる。」