市民参加によるSAICM国内実施計画の推進と改善提言・情報の普及啓発

2020年5月29日

地球環境基金2017~2019年度助成活動のまとめとして、政策提言をまとめました。

はじめに

                

活動法人有害化学物質削減ネットワーク
                      理事長 中地 重晴

1999年に化管法(化学物質の排出把握及び管理の促進のための法律)が制定され、2001年度からPRTR(環境汚染物質排出移動登録)制度が開始された。PRTR制度で集計公表されるデータを市民が有効活用していくために、市民向けの普及啓発活動を目的として、2002年4月に有害化学物質削減ネットワーク(Tウォッチ)を結成した。PRTR届出データを検索できるウェブサイトを開設し、市民向けに情報提供してきた。

2002年のWSSD(持続可能な開発に関する世界首脳会議)で、化学物質管理に関する2020年目標が決議され、国際的な化学物質管理の取組みが進められている。日本においても2012年、第4次環境基本計画とSAICM(国際化学物質管理に関する戦略的アプローチ)国内実施計画が策定されたが、市民に対して周知され、市民参加で化学物質管理に関する政策が実施されているとは言い難い現状である。そこで、自治体や企業など関係者へのアンケートを通して、SAICM国内実施計画の進捗を点検し、2020年目標を達成するための課題を整理し、改善提言を行う活動を企画し、2017年度~2019年度地球環境基金助成事業に採択された。本報告書は3年間の活動を取りまとめ、化学物質管理を進めていくうえで、必要とされる政策を取りまとめた。

2020年目標達成のために、国際的な化学物質管理の取組みが進められてきたが、我が国では、第4次環境基本計画とSAICM国内実施計画の策定は、省庁連絡会議で検討されただけで、一部「化学物質と環境に関する政策対話」で議論されているものの、市民に対して周知され、市民参加で化学物質管理に関する政策が実施されているとは言い難い現状にある。

その中で、国が策定したSAICM国内実施計画について、環境省が地方自治体、事業者、NGO・市民団体の取組みを点検し、ICCM(化学物質管理会議)やSAICM事務局に報告しているが、代表者への問い合わせで、実情を把握できたとは言えない。また、「化学物質と環境に関する政策対話」の報告資料として、公表されているのみで、一般人には届いていない。

市民セクターが一般市民を対象に、化学物質管理に関する市民の意識や市民の自発的な行動、取組みについて行ったアンケート調査は、Tウォッチのみであリ、日本における化学物質管理が市民を巻き込んで行われているのか、市民がどう評価しているのかという現状を示したものとして、有意義な調査活動であると評価できる。

今回取りまとめた政策提言は、国に提出し、今後の政策に生かされるよう働きかけていきたい。また、政策提言に関する質問や意見があれば、お知らせいただき、今後の取組みの参考にしていきたいので、ご協力をお願いしたい。

政策提言

PRTRについて

PRTR制度によって届出られた16年間の有害化学物質の排出、移動量の経年変化の特徴をみると、排出量は約4割、移動量も2割減少したことがわかります。特に、2008年秋のリーマンショックによる不況の影響を大きく受け、2年間で2割強減少しました。2010年度より対象物質の見直しがあり、排出、移動量とも増加に転じました。以前から継続して対象物質だったものだけで比較しても、排出量は横ばい、移動量は増加傾向に転じました。景気が回復し、一旦増加しましたが、事業者の自主的努力の成果か、排出量は横ばい状態で、移動量は横ばいから増加傾向にあり、事業者に一層の努力を要請したいものです。

2003年度以降届出外排出量が大幅に減少したのは、届出対象業種からの推計値が大幅に減少したためで、推計方法の誤差か排出量がきちんと届け出られていないためか、制度的な欠陥がないか検討の必要性を示しています。一度、さかのぼって推計しなおす必要があります。また、毎年のように、推計方法が変更される移動体(主に自動車)からの排出量は毎年増減するのが特徴ですが、事業場からの大気の排出量の半分に相当する量が排出されています。

SAICM・化学物質管理について

PFOS/PFOA

2009年のICCM2からアメリカが有機フッ素化合物を新規課題に追加し、規制することを提案しています。パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)は2009年5月にPOPs条約の付属書Bに、パーフルオロオクタン酸(PFOA)は2019年5月に付属書Bの項目に追加され、製造、使用、輸出入を制限する物質に指定されました。これに基づいて、PFOSは2010年4月から化審法で、第一種特定化学物質に指定され、原則製造、輸入が禁止されている。

PFOSやPFOA等の有機フッ素化合物は、水や油をはじく、熱に強い、薬品に強い、光を吸収しない等の特徴的な性質を持つため、撥水剤、表面処理剤、乳化剤、消火剤、コーティング材等に用いられている。私たちの身近なものとしては、フライパンや鍋等のテフロン加工や、スキーウェアなどの撥水剤に使用されてきました。

化審法では、PFOSの用途は、代替困難を理由に、圧電フィルタや特定の半導体製造用のエッチング剤、半導体用のレジストの製造、業務用写真フィルムの製造の3用途のみ、使用が認められています。他の用途での使用は禁止されています。しかし、国内には、PFOSを含む泡消火剤の備蓄量は約21,000トン(PFOS換算量は200トン未満)程度あると推定されています。

PFOAは、フッ素樹脂製造の添加剤、触媒として使用されています。非意図的生成として、PFOS化合物の不純物、フッ化水素系の防汚、撥水、撥油製品からの副生成や同製品が環境中で分解されて生成するという報告があります。

PFOSやPFOAの環境基準値や水質基準値はありませんが、米国環境保護庁では2016年5月にこれまでのPFOSで200ng/L以下という暫定健康勧告値を生涯健康勧告値としてPFOSとPFOAの合計値で70ng/L以下に改正しました。

2003年から大阪府神崎川水系におけるPFOAの環境汚染や人体汚染が問題になりました。原因企業が2012年に使用を停止しましたが、汚染は続いています。

沖縄における汚染

2013年度から開始された沖縄県企業局の調査で、嘉手納基地と普天間基地が汚染源とみられるPFOSとPFOAの環境汚染が発生していることが明らかになりました。

沖縄県企業局が、2013年度から上水道の原水と浄水を測定し、比謝川取水ポンプ場と大工廻川で、70ng/Lを超えて検出されました。

2013年度から2018年度の測定で、比謝川取水ポンプ場のPFOS+PFOA濃度の年平均値は170~293ng/L、大工廻川のPFOS+PFOA濃度の年平均値は346~706ng/L、最大値は1379 ng/Lでした。PFOS+PFOA濃度の最大値が1回でも70ng/Lを超えた地点は、長田川取水ポンプ場、川崎取水ポンプ場、嘉手納井戸の3か所があります。市民が飲用する浄水(上水道で処理した後の水)では、PFOS+PFOA濃度の年平均値で70ng/Lを越えてはいないが、北谷浄水場の浄水では年平均値は14~44ng/Lであり、2015年度に82、120ng/Lと2回基準値を超える濃度を記録しました。

比謝川取水ポンプ場の汚染源を明確にするため、県企業局は嘉手納基地周辺の地下水調査を2018年度から実施しており、2か所で基準を超える濃度を検出しました。

2016年度から沖縄県は普天間飛行場周辺の詳細調査を実施しています。調査地点は2016年度夏季に調査を開始以後、回を追うごとに増加しています。2016年度夏季の調査では、PFOS+PFOA濃度が70ng/Lを超えた地点は3か所でしたが、2018年度夏季の調査では、8地点でPFOS+PFOA濃度が70ng/Lを超えました。普天間基地の北側で、河川と地下水がPFOS、PFOAで、EPAの示している70ng/Lを超えて、検出されており、年々汚染範囲が拡大していることがわかります。日本政府は米軍に対し立ち入り調査を要望していますが、米軍は拒否し続けているので、汚染源は何か特定できていません。汚染源の排除、対策が取れないのであれば、PFOAによる環境汚染は継続すると考えられています。

海洋ごみとプラスチック問題

物質の化学物質が使用されていると推定されています。プラスチックの多くは、原油から重油、ガソリン等を生成する際に、副成されるナフサから合成され、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル、PET(ポリエチレンテレフタレート)などがあります。その成型加工のための可塑剤や難燃剤、着色用の顔料、劣化防止のための酸化防止剤など、微量成分も含め、プラスチック製品に関連する化学物質の種類は多岐にわたり、多種多様です。

日本プラスチック工業連盟の資料によると世界のプラスチック消費量は第2大戦後増加し、1950年以降、約83億トン生産され、約63億トンが廃棄されたと推計されています。近年では年間2億8千万トン程度生産され、増加傾向を示している。経済成長を続ける中国の生産量が増加しています。

毎年生産されるプラスチックの多くは、容器包装材などに使用され、廃棄される。廃棄されたプラスチックは焼却しない限り、容易には消滅することなく、姿をとどめることになります。一部は紫外線や摩耗によって崩壊し、マイクロプラスチックに分解していきますが、その前に東南アジアや中国などで、道端に捨てられたプラスチック類が回りまわって、海洋ごみとして世界各地の海岸に漂着することになります。

環境省の資料によれば、陸上から海洋に流出したプラスチック廃棄物を国別に推計したところ、2010年の推計値では、年間の海洋流出量が、1位中国132~353万トン、2位インドネシア48~129万トン、3位フィリピン28~75万トン、4位ベトナム28~73万トン、5位スリランカ24~64万トンの順で、アメリカが20位4~11万トン、日本は30位2~6万トンでした。プラスチックを海洋流出させる国の1~4位は東・東南アジアが多く、海流の関係で、日本近海のプラスチック漂着量が多いことが明らかです。

2016年1月のダボス会議で出された資料では、このままプラスチックの海洋への流出が続けられると重量ベースで2050年には海洋に棲む魚よりも、プラスチックの方が多くなるという試算が出てきました。

海洋ごみを水生生物が捕食することで、悪影響を受けることは容易に推測できます。さらに、厄介なことは、海洋中を漂流するプラスチックがPCBなど難分解性の有機化合物を吸着、濃縮していることです。東京農工大の高田秀重先生らの研究では、日本、アメリカ西海岸・東海岸、北西ヨーロッパの海岸に漂着するマイクロプラスチック中のPCB濃度は、ヨーロッパで最大2970ng/g、日本で942ng/g、アメリカ西海岸602ng/gと、ppmオーダーに近い濃度になっています。これらを魚介類が捕食し、汚染されます。1990年代に北海や北太平洋等で、イルカやアザラシの大量死があり、PCBによる免疫機能の低下が原因だとされましたが、海水中のPCB濃度が高くなったことから、マイクロプラスチックによる吸着や濃縮が関係していると考えるべきです。

ポスト2020

香害について

子どもの間にも、香害の被害が増えているようです。中学や高校の更衣室では、制汗剤やデオドラントのにおいが充満していて、部屋に入れず、登校拒否する子どもが出てきています。職場で隣の人が香水を多用していて、気を失って救急車で搬送されるような被害もあります。世間はにおいにマヒしてきているようです。

香害は現代の空気公害としてとらえるべきです。香料の成分は企業秘密で、製品表示では、香料と表示すればそれでよいとされています。どんな有害物質が入っているのか消費者にわからない事が問題です。

日本消費者連盟が、2017年から香害110番という電話相談を行ったところ、たくさんの相談があり、香害被害に取り組むように、国、消費者庁に市民団体8団体で要望書を提出しました。Tウォッチも香害問題に取り組む市民ネットワークに参加し取り組んでいます。

  

香害をなくすために

香害をなくすためにはどうすればよいでしょうか。「香り付きを謳い文句にする製品を買わない」など、香料使用の自粛を呼びかける。香りは合成化学物質で有害であることを周囲に伝えるなどを進める必要があります。また、国や自治体に対し、製品中の成分表示の徹底と安全性調査の実施を働きかけることが必要です。

また、香害の被害者を作り出さないため、メーカーに成分表示や安全性などの情報公開を求め、民放連に対し、テレビの香付き製品のコマーシャルの自粛を要請する必要があります。

今こそ、甘い香りに惑わされないように気を付けて、自らの暮らしのあり方を見直す時期にきています。

農薬について

ネオニコチノイド農薬は、21世紀に入って、世界各地でミツバチの大規模な失踪、大量死の原因物質として問題になりました。開発した企業は、農薬には選択毒性があるので、昆虫は死ぬが人間には安全であると説明していますが、人間においても子どもの脳や神経系への悪影響の恐れが指摘されています。

2013年末よりEUでは予防原則に基づき、ネオニコチノイド農薬3種類を一時的に使用中止し、2018年には同成分の屋外での使用中止を決定しました。一方日本では、ネオニコチノイド農薬は弱毒性だとする“安全神話”がまかり通り、国内の出荷量は、増加の一途をたどっています。

大きな問題として、農作物へのネオニコチノイド農薬の日本の残留基準はEUやアメリカと比べて、非常に甘いことが指摘されています。

2001年度からスタートしたPRTR制度で、2007年に制度の見直しが行われ、対象物質が増加しました。それから十年余を経て、2019年6月に制度の見直しが提案され、現在、国の専門委員会で、対象物質の見直しが検討されています。

この10年で使用量が増え続けるネオニコチノイド農薬6種類も対象物質の候補にあがっています。農薬は農薬取締法で規制されていて、製造段階での排出量は皆無で、PRTR対象物質から外すべきだという産業界の意見もありますが、農薬の散布は、全量が環境中に排出され、人や生き物への悪影響が懸念されます。PRTR制度の届出外排出量として、正確に排出量を把握し、地域の環境リスクの把握に活かしていくべきです。

リスクコミュニケーションのあり方について

PRTRのデータからわかることは、自分の住む地域の環境にどのような化学物質がどれぐらいどこに度放出されているかです。大切なことは、環境中の化学物質によって私たちがどのような被害をこうむる可能性(リスク)があり、そのリスクを削減するために排出事業者がどのようなリスク管理やリスク削減を行う必要があるかを知ることでしょう。そのためには、関係する行政、事業者、専門家等の持つ化学物質の危害情報、リスク評価情報、リスク管理手法などの関連の情報が公表され、住民を交えた対等な場での継続的な対話が必要です。

このような化学物質のリスク管理やリスク削減に向けたコミュニケーションの場を「リスクコミュニケーション」といいます。

OECDでは「そのガイダンス文書」で、リスクコミュニケーションの最終目標は住民等が「目前の問題に関する事実証拠を踏まえた上で、バランスのとれた判断を下せるようにすること」にあるとし、「化学品の消費者などに対して、コミュニケーションをする側(製品に関する助言を行う政府機関など)の正当性を説得するためのものであると考えてはならない」と戒めています。

経済産業省のパンフレットでも『情報の共有と信頼醸成のための地域対話/リスクコミュニケーション』と位置づけ、事業者や自治体の責任で化学物質について正しく理解してもらうための努力を求めています。

PRTRのデータを検索し、少しでも疑問や不安を感じたら、関係事業者と地元自治体に対し、「情報公開」とともに「リスクコミュニケーション」の開催を要求しましょう。

Tウォッチはそのお手伝いをします。