7月23日:耐性菌 抗生物質の飲み残しは厳禁
2016年7月23日
朝日新聞2016年7月23日03時30分
(今さら聞けない+)耐性菌 抗生物質の飲み残しは厳禁http://digital.asahi.com/articles/DA3S12471194.html?rm=150
抗生物質(抗菌薬)が効かない耐性菌に注目が集まっています。世界保健機関(WHO)は世界中で危険なレベルに達しているとして強い懸念を示し、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)でも対策が議論されるなど、世界的な課題となっています。
抗生物質の歴史は、1929年、英国の学者フレミングがペニシリンを発見しログイン前の続きたことに始まります。以来、バンコマイシン、メチシリンなど様々な抗生物質が開発され細菌の感染症治療に用いられてきた一方、それに対する耐性菌が次々に出現するという、いたちごっこの状況が生じてきました。
耐性菌は、遺伝子が突然変異したり、細菌が持っている耐性遺伝子が他の病原菌に乗り移ったりして生まれます。抗生物質を使うと、ほとんどの菌は死んで耐性菌だけが生き残り、使いすぎは耐性菌にとって有利な環境をつくり出すことになります。耐性菌が感染を繰り返すと、複数の抗生物質への耐性を獲得し、多剤耐性菌になります。使える抗生物質がどんどん限られ、治療は困難を極めていきます。
耐性菌は、医療機関での院内感染や、保菌者が国外へ移動することなどで世界的に広まっています。WHOは、耐性菌が生まれる背景として、抗生物質の過剰な処方や不適切な使用を挙げています。人だけでなく、家畜に動物用抗菌薬を過剰に投与してきたことでも耐性菌が生まれ、食品などを通じて人に広がる恐れも指摘されています。
耐性菌にはどのような種類があるのでしょうか。
特に対策が急がれている一つがカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)です。抗生物質の中でも優秀なカルバペネムへの耐性を獲得した菌で、有効な薬がほとんどなく、世界各地に急速に広がっています。国内でも大阪府の病院で大規模な院内感染が起こりました。他の耐性菌と比べ、健康な人でも重症化する恐れがあり、米国ではCREによる感染症で敗血症を発症すると、最大で半数の患者が死亡するとの報告もあります。
さらに米国では5月、抗生物質で「最後のとりで」とされるコリスチンが効かなくなった耐性菌の人への感染が初めて確認され、拡大が懸念されています。この菌の耐性遺伝子は日本でも動物で見つかっています。
こうした現状に対し、どんな対策が求められるのでしょうか。
近年、新しい抗生物質の開発は滞っています。名古屋大の荒川宜親教授(細菌学)は、「近年、製薬会社は長い使用が見込める生活習慣病などの薬にシフトしている」と指摘します。今後は国や学術機関を中心に抗生物質の開発を進める必要があるといい、「今までのような幅広い菌に効く薬ではなく、それぞれの菌にピンポイントで効く薬が求められる」と話しています。
患者側には、抗生物質の正しい服用が求められます。製薬会社などでつくる一般社団法人「くすりの適正使用協議会」のアンケートによると、3人に1人の親が、病院で処方された薬を自分の判断で量を調整して子どもに飲ませたことがあり、さらに3人に2人は、子どもに同じような症状が出た際に薬の使い残しを飲ませた経験がありました。
昭和大の二木芳人教授(臨床感染症学)は「日本ではかつて抗生物質が過剰に処方されていたが、近年は医師への啓発も進んできた。菌を確実に消すには、必要な時にだけ、処方された量を守って服用することが大切だ」と話しています。さらに、必要がないのに抗生物質を医師に求めないこと、手洗いなど基本的な感染症対策を習慣づけることが対策として挙げられるといいます。
■記者のひとこと
引き出しに飲み残しの薬が――。身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。政府が4月にまとめた耐性菌に関する行動計画では、市民の意識啓発もひとつの軸になっています。抗生物質を敬遠しすぎる必要はありませんが、これを機に薬の服用の仕方を見直してみてもいいかもしれません。(松本千聖)