水銀国内処分課題に水俣条約で輸出に制限

2013年2月4日

朝日新聞2013年2月4日 水銀国内処分課題に水俣条約で輸出に制限

人体に有害な水銀を規制する「水俣条約」が1月に合意されたのを受け、政府は批准に向けた国内体制の整備に入る。日本への影響が大きいのは輸出入の制限だ。日本は使用を減らしてきた一方で、工業などで出る水銀の多くを回収して海外に売っている。数年後に条約が発効すると、廃棄物として保管・処分を求められる。

批准目指し体制整備

北海道北見市の野村興産イトムカ鉱業所。非鉄金属の製錬工程で出た副産物から水銀を取り出す作業や、水銀を使う蛍光灯・電池のリサイクルを行う建屋が並ぶ。銅や亜鉛、鉛の鉱石には水銀が含まれ、国内17カ所の製錬所から砂状の副産物が運ばれてくる。リサイクルでは全国の自治体の半数近くと契約している。

ここで回収される高純度の水銀は年50~60トンほど。かつて水銀は化学工業や乾電池など産業界で広く使われたが、水俣病の経験を踏まえて別の物質への置き換えが進み、水銀鉱山もすべて閉山。ピーク時の1964年に約2500トンあった国内需要も、最近は年10トン程度にとどまる。国内だけでは余るため、多くが海外に輸出されている。

日本の過去10年間の輸出量は年54~250トンで世界有数だ。輸出先はインドやシンガポールなど二十数カ国。国内外の環境NGOは「さらにほかの途上国に流れ、水銀を使う小規模な金採掘現場での健康被害につながっているのでは」と疑念の目を向ける。

新条約が発効すると、貿易は条約で認められた一部製品・製造工程向けなどに制限される。「商品」だった余剰水銀の大半は「廃棄物」となり、国内で環境に悪影響を及ぼさない形で管理・処分する必要がある。

ただ現在は、鉱石やリサイクルから取り出される高純度の水銀を廃棄物として処分する仕組みや環境面の基準はない。蛍光灯など水銀を含むごみは、水に溶け出す水銀が一定量以下なら、一般の不燃ごみや産業廃棄物として捨てられる。常温の水銀は液体で、安全に処分するには漏れ出さないよう半永久的に安定した状態にする技術が必要。環境省などが進める処分方法の研究に参加するイトムカ鉱業所の藤原悌所長は「固体で水に溶けない硫化水銀などにすれば安定化できる」と話す。

このほか、処分のルールを定める必要があり、費用をだれが負担するのか、といった問題も避けて通れない。環境省は条約が発効する数年後に向けて、対処を本格的に検討する構えだ。(神田明美)