コンビナート危うい安全 技術伝承の不足 危機対応力の低下
2014年4月3日
朝日新聞2014年4月3日
コンビナート危うい安全 技術伝承の不足 危機対応力の低下
三菱マテリアル四日市工場(三重県)で1月に起きた爆発など、国内のコンビナートで重大事故が相次いでいる。背景には、団塊世代の大量退職などによる技術伝承不足や、自動化に伴う作業員の危機対応力の低下がある。
重大事故、相次ぐ
同工場で5人が死亡し、13人が重軽傷を負った事故。熱交換器を洗浄しようとふたを開けた数秒後に爆発したが、開けるタイミングは交換器に手で触れ、冷めているかどうかで判断していた。名古屋工業大の越島一郎教授(プロセスシステムエ学)は「計器などで調べるべきで、意識や感度が低いというしかない」と語る。
総務省消防序のまとめでは、国内の石油コンビナートの事故(地震や津波除く)は、1993年の45件から2012年に過去最多の248件になつた。劣化など物的要因が約半数、人的要因が約4割だった。
三井化学岩国大竹工場(山口県)では12年4月、原料製造タンクが爆発、1人が死亡、25人が負傷した。同社が委託した事故調査委員会は、プラントの緊急停止時の作業員の誤った操作が直接の原因としたうえで、知識不足などから操作が爆発につながると十分に認識していなかったと指摘した。
「トラブルを経験したベテランが若手を教育する機会が減り、何か起きたときの応用力が低下しているのではないか」と同社生産・技術本部の松尾英喜本部長は語る。事故の損害額は約80億円。全マニュアルの見直しを進めている。
経済産業省の分科会の報告書も、最近の事故の背景として、団塊の世代の退職や自動運転の増加による、技術伝承不足や危険予知能力の低下を挙げる。コンビナートは高度成長期に次々と誕生した。横浜国立大の三宅淳巳(あつみ)教授(安全工学)は「相次いで設計寿命を迎える一方、国際競争激化で設備の大幅な更新は難しい」と指摘する。
業界団体は安全対策を強めている。日本化学工業協会(日化協)は昨年まとめた保安事故防止カイドラインで、例えば、機器が保つべき蒸気の流量について、その理由もマニュアルに具体的に記すよう定めた。理屈を分かっていないと緊急時に対応できないからだ。非鉄金属業の三菱マテリアルは日化協に加盟しておらずガイドラインを活用していなかった。同社が加盟する日本鉱業協会は「事故調査に取り組む憤例がない」(担当者)。逆に日化協は同社の事故に関心を示す。「化学業界でも同様の事故が起きる可能性がある。詳細を知りたい」と情報共有の必要性を訴える。(坂本進、黄澈、岩崎生之助、東山正宜)
過去の主なコンビナート災害 消防白書などから
1992年10月 富士石油袖ケ浦製油所(千葉県袖ケ浦市)
プラント爆発で9人死亡、8人けが
2003年8月 エクソンモービル名古屋油槽所(名古屋市港区)
タンク火災で6人死亡、1人けが
2006年1月 太陽石油四国事業所(愛媛県今治市)
タンク火災で5人死亡、2人けが
2007年12月 三菱化学鹿島事業所(茨城県神栖市)
プラント火災で4人死亡
2010年6月 京葉モノマー(千葉県市原市)
塩酸漏出で2人死亡、6人けが
11年11月 東ソー南陽事業所(山口県周南市)
プラント爆発で1人死亡
2012年4月 三井化学岩国大竹工場(山口県和木町)
プラント爆発火災で1人死亡、25人けが
2012年9月 日本触媒姫路製造所(兵庫県姫路市)
プラント爆発で1人死亡、36人けが