9月9日:クルーグマンコラム 鉛汚染と大統領選 環境政策 党派の違い鮮明

2016年9月9日

朝日新聞201699
クルーグマンコラム 鉛汚染と大統領選 環境政策 党派の違い鮮明

 

(前略)

 確かに、今日の米国の鉛汚染は、トランプ氏を支持する人たちが言う古き良き時代より、はるかに減った。汚染が減っていることが、犯罪滅少の重要な要因と考える専門家もいる。

だが、鉛はたとえ血中濃度が低くても子どもの認知能力に大きな悪影響を及ほす点で、意見が一致しつつある。私がいま読んでいる経済学者と医学者のチームによる新たな研究結果でも裏付けられている。鉛による汚染はいまなお、恵まれない家庭で守どもが育つことと強い相関関係がある。

(略)

私は2013年に米国で出版された本「鉛戦争-科学の政治と米国の子どもたちの運命」(未邦訳)を読んでいる。正直なところ、驚くにはあたらないが、やはり気がめいる話だ。鉛が害を及ぼすことは何世代も前からわかっていたのに、対策が遅く、いまもまだ極めて不十分だ。

経緯はだれでも想像できる。鉛産業は、やっかいな規制で事業が制限されることを嫌った。科学をけなし、防御のための対策費を大幅に誇張した。酸陛雨、オゾン層、気候変動といった議論を見てきた人々からみれば、あまりにもおなじみの戦略だ。だが、この鉛の事例ではさらに、汚染の責任も犠牲者に押しつけた。鉛中毒は家屋の手入れをせず、子どもの面倒をみない無知な「黒人とプエルトリコ人の家庭」の問題に過ぎないと言い続けたのだ。

こうした戦略が成功して、対策は何十年も遅れた。この間、何百万軒もの家やアパートに鉛を含んだ塗料をたっぷり塗ったままにして、文字通り有害な遺物となった。

鉛を含む塗料は1978年についに販売禁止になるが、そこへ(新自由主義的な)イデオロギーが介入する。

(略)

クリントン氏は、5年以内に「あらゆる場所から鉛を排除する」と約束している。

こんなに野心的な政策だと、おそらく議会で予算を確保できないだろう。でも、彼女の歩んできた道のすべて、特に何十年も家族政策に焦点を当ててきたことを踏まえれば、真剣に取り組むだろうと考えられる。

トランプ氏はというと、言うまでもない。あらゆるたぐいの政府規制に反対して、わめき散らす人物だ。

 

(後略)

(NYタイムズ、92日付抄訳)