9月15日:鉛リサイクル国内危機 高値の韓国に流出→ずさんな管理

2016年9月15日

朝日新聞2016915

鉛リサイクル国内危機 高値の韓国に流出→ずさんな管理

 

使用済みの車のバッテリーの韓国への輸出が止まらない。バッテリーに含まれる鉛が高値で買い取られるからだ。だが、韓国では6月、リサイクル後の不法投棄などずさんな処理が発覚。適正に処理をする日本のリサイクル業者が競争に勝てず、事業存続が危ぶまれている。経済産業省と環境省は14日、専門委員会を設置し、規制のための法改正に向けた検討を始めた。

鉛をリサイクルする「大阪鉛錫精錬所」(大阪市)では最近、工場で処理できる量の7割ほどしか鉛が入ってこないという。広末雅昭杜長は「このままでは続けられない」と話す。 

原因は韓国への輸出だ。韓国が高値で買い取ることから、多くのバッテリーが流れた。中国への自動車輸出が増えた2008年の北京五輪を契機に輸出量が急増。06年までは2万トン未満だったが、12年以降は10万トン前後に増えた。日本鉱業協会によると、国内の使用済みバッテリーの4割近くが韓国に出ている可能性があるという。

その韓国で6月、主な鉛リサイクル業者11杜が一斉に摘発された。韓国政府の発表によると、鉛処理で出る汚染廃棄物を不正処理していた疑いがもたれている。処理費を浮かした分を買い取り価格に上積みしていた可能性がある。

同協会の清水隆・技術部長は「不正処理をするような業者への輸出がなぜ許されるのか。同じ土俵で戦わせて欲しい」と話す。14年度、国内業者は処理能力の約3分の1しか稼働していない。14年には静岡県の鉛リサイクル会杜が倒産。廃業が続けばほかの金属の精錬過程で不純物として出る鉛の処理が出来なくなり、金属業界全体にも影響が出かねないという。

韓国での不正処理発覚後、環境省は6月末から新規の輸出の申請手続きを保留しているが、発覚前に申請が認められた分は、現在も輸出が続いている。鉛バッテリーなどの有害廃棄物の輸出入を規制する「バーゼル法」に、今回のような場合の対応が整備されていないからだ。

国は法改正検討

経産、環境の両省が立ち上げた専門委員会では、輸出先の業者が適正処理することを確認する仕組みの導入や、不適正処理の恐れがあれば輸出を止めるなどの対応ができないか、法改正を視野に検討する。欧州やオーストラリアなどでは、資源となる金属をなるべく国内で処理する政策や、輸出する際に適正な処理が確認されないときには輸出を禁止できる仕組みがある。

リサイクルに詳しい慶応大学の細田衛士教授は「問題は鉛バッテリーだけにとどまらない。乏しい資源を国内でどう循環させていくのかや、公害を輸出しないための仕組みづくりを、国の政策として考える必要がある」と指摘する。(小坪遊)