3月24日  大気汚染、アジア覆う 

2013年3月24日

朝日新聞2013年3月24日  大気汚染、アジア覆う 

中国で問題となっている微小粒子状物質「PM2・5」などによる大気汚染は、アジアや中東、アフリカといった地域の国々でも深刻な状況にある。一経済優先で排ガス対策が後回しになりがちな国が多く、対策が急がれている。

インド 世界最悪 PM2.5は高濃度

ニューデリー市の公立病院のぜんそく専門外来では、小さな子を連れた母親が列をつくっていた。

ハーシュ・ダニ君(7)は4年ほど前に呼吸が苦しくなり、ぜんそくと診断された。通院と薬が欠かせない。母親のマムタさん(27)は「原因はわからないが、大気汚染のせいかも知れない」と話す。

政府の2008年の調査では、肺の機能が不十分とされた子どもの割合は43・5%で、地方の25・7%を大きく上回る。同病院の呼吸器科医は「子どもの呼吸器疾患は増えており、汚染が要因の一つであることは間違いない」と説明する。

急成長を遂げたインドは、米イエール大などによる世界132カ国に対する昨年の大気汚染調査で中国(128位)を下回って最下位。デリー準州当局によると、PM2・5は昨年の平均値は143マイクログラム。国の基準値の2・4倍だ。

地元メディアによると、汚染源の65%は排ガスだ。首都を走る車は02年からの8年間で約2倍に増えた。環境NGOの研究員ビベク・チャトパドヤイ氏は「増加する車や頻発する停電で自家発電機が使われ、汚染が進んでいる」と話す。(ニューデリー=五十嵐誠)

 

ベトナム 乏しい情報

社会主義に市場経済を採り入れ成長を続けるベトナム。首都ハノイでは朝タにバイクが道路を埋めつくし、排ガスをまく。長男を幼稚園に毎朝バイクで送っているアインさん(34)は、親子おそろいのチェック柄のマスクで対策をとる。「政府が有効な策をとらないので、家族の健康は自分で守るしかない」

報道では、大気汚染は交通量が多い都市では基準の2~3倍などとされるが、最新の公的なデータはなかなか公表されない。

ハノイ理科大学のホアン・スアン・コ教授は「データが乏しいことが問題」と語す。政府は市内7カ所に観測機器を設置しているが、老朽化などで信頼できるのは2カ所だけという。

「中国のような事態になる前に、正確なデータを採取し独自の対策をとる必要がある」と語す。

世界保健機関(WHO)ベトナム事務所の葛西健所長は「大気汚染には越境の恐れもあり、一国の問題にとどまらない」と指摘する。(ハノイ=佐々木学)

 

「1450人が死亡」イランで報道

イランの首都テヘラン北部にそびえる標高3千メートル級のエルブルズ山脈。中腹から見渡すと、街が黄土色っぽい空気の層で覆われている。保健省のアガジャニ顧問は1月、国営テレビで「呼吸器疾患で病院を訪れる人が30%増えた」と語った。

昨年度は大気汚染が引き金となって4460人が死亡したという。

国産燃料の質の低さも指摘されている。産油国ながら精製施設が老朽化し、国内で使うガソリンの約3割が輸入だった。米国は2010年、核開発への制裁として、イランにガソリンを売った外国企業に制裁を科す法律を制定した。そこで政府は国産の増量に乗り出したが、「粗製乱造で汚染を悪化させた」と国会でも問題視されている。

政府は、汚染がひどい日を休日とし、マイカー使用の自粛を呼びかけているが焼け石に水。昨年3月に欧州並みの排ガス規制導入を閣議決定したが、金融制裁で自動車産業は大きな打撃を受け、業界関係者は「メーカーに新規制に対処できる余裕はない」と話す。(テヘラン=北川学)