2月18日:PM2.5、かすむモンゴル 首都の人口増、石炭で暖房

2016年2月18日

朝日新聞2016年2月18日09時31分
PM2.5、かすむモンゴル 首都の人口増、石炭で暖房
http://digital.asahi.com/articles/ASJ2L33D5J2LUBQU00K.html?rm=764
「草原の国」モンゴルの首都ウランバートルが、微小粒子状物質PM2・5による大気汚染に悩んでいる。現地に入ってみると、北京の汚染に慣れた記者も絶句するほどの深刻さ。隣国の首都を大きく上回る汚染の背景には、政府の対策の遅れがあった。

■マイナス30度の朝、50メートル先見えず

ウランバートルのバイヤンホシュ地区。なだらかな坂に沿って木造の民家とモンゴル伝統のテント式住居「ゲル」がひしめく。

2月2日朝、マイナス30度の寒さの中、職場や学校に向かう人々が行き交っていた。どこにでもある朝の風景だが、異様なのは、晴天なのに一帯が白い霧のようなものに覆われ、50メートル先も見えないことだ。焦げたようなにおいも鼻をつく。

記者が北京から持参したPM2・5濃度の携帯用測定器を取り出すと、数値が一気に上昇し、表示できる上限の「999」に達した。メーターが示すのは1立方メートル当たりの濃度(単位はマイクログラム)。仮に1千だとすると、日本の環境基準値の28・6倍にもなる。PM2・5の汚染が深刻な北京では、500を超えると大きな話題になるが、同地区では冬の朝晩、こうした状況が日常的なのだという。

「ウランバートルの大気汚染の8割は、ゲルなどでたかれるストーブが原因です」。モンゴル気象環境検査庁環境検査部のバトバイヤル部長が説明した。

ウランバートルは、モンゴルで市場経済が導入された1990年代から人口が急増。とりわけ、深刻な大雪害が起きた2001年以降、草原を離れた遊牧民らが続々と定住し始めた。99年に76万人だった市の人口は14年に約136万人になり、国の人口の約45%を占めるまでに増えた。

その多くは貧しく、燃料は安い石炭を使う。冬の朝晩、首都の大気が白く煙るのは、彼らが一斉に炊事をし、暖を取るからだ。

ログイン前の続き妻と子2人でゲルに暮らすインフモンフさん(49)は測量会社でのアルバイトで生計を立てている。

食事を作るのもゲルを暖めるのも、小さなストーブが頼りだ。月収は約75万ツグリク(約4万3千円)。冬場に使う石炭は、同じ敷地に住む妹夫婦と合わせて毎月約3トンで、1トン当たり15万ツグリク(約8500円)かかるが、「電気代は高いし、年々値上がりする。石炭なしの暮らしは想像できない」と話す。

地元紙によると、大気汚染が原因とみられる呼吸器疾患の患者数が99年から15年の間に全国で26・8%増加したとの調査もある。

■ゲルの煙突、削減進まず

中国のPM2・5汚染は、農村部で使われる石炭燃料、自動車や工場からの排ガスなど様々な原因が指摘される。中国政府は強い政治力を発揮し、数千の工場の操業をやめさせたり、厳しいマイカー規制を敷いたりしている。それでも、原因が複雑に絡み合い、抜本解決には至っていない。

「その点、我々の課題ははっきりしているのです」

バトバイヤル部長は中国との違いを話す。

最大の課題は28万~30万本と言われるゲルの煙突を減らすこと。低所得者向けの福祉住宅を増やし、そこにガスや電気などを供給できれば、状況は劇的に改善するとみられている。

もう一つの対策は、ばいじんの少ない石炭燃料「半成コークス」の普及だ。政府の支援で工場をつくり、庶民に手が届く値段で買えるようにする構想がある。

民主党主導の現政権は、4年前の総選挙で大気汚染対策を公約に掲げながら、「資金不足」を理由にこうした計画を実現させていない。だが、在モンゴルの外交筋は「金がなかったわけではない」と指摘する。

銅や石炭など資源が豊富なモンゴルは、中国のエネルギー需要などで、国内総生産(GDP)が11年の17%を皮切りに3年連続で2桁成長を達成。12年から、チンギス国債と呼ばれる15億ドル(約1700億円)のドル建て国債も発行した。

潤った政府予算の多くは地方の道路や鉄道の整備などに回された。しかし、情報開示を求める内外の声にもかかわらず、使途不明な部分が多く、汚職を疑う声は根強い。

一方、政界では外国に資源を収奪されることに反発する「資源ナショナリズム」が台頭。外資を受け入れるべきかどうかで論争となり、12年に成立した「外資規制法」が、翌年には廃止されるなど混乱した。リスクを嫌った外資が投資を控え始めたうえ、中国経済の減速などもあり、15年のGDP成長率は2・3%に激減する見通し。財政も急速に悪化している。

日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)も日本企業と協力して半成コークス工場の建設援助を提案し、14年度から事前調査を始めた。だが、費用負担を巡るモンゴル側の調整が長引いている。

モンゴル政府環境部門の関係者は「欠けているのは解決が必要な問題にお金と精力を振り分ける政治の力だ」と話す。モンゴルでは今年6月に総選挙が控える。環境問題が浮き彫りにする政治の迷走に、有権者がどんな審判を下すかが焦点となる。

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(ウランバートル=林望)