農水省:森林内の放射性物質の分布状況調査結果について

2013年3月29日

平成25年3月29日 農林水産省

森林内の放射性物質の分布状況調査結果について

農林水産省は、昨年度に引き続き、福島県内の森林において、土壌や落葉層、樹木の葉や幹などの放射性セシウムの濃度とその蓄積量を調べました。その結果は、次のとおりです。

(1)樹種別の放射性セシウム濃度

3樹種(スギ、アカマツ、コナラ)の放射性セシウム濃度を測定した大玉調査地では、昨年度に比べ、いずれの樹種でも、葉や枝、樹皮、落葉層の濃度が大幅に低下しました。材(辺材と心材)の濃度は昨年度と同じく、他の部位と比べ極めて低く、ほとんど変化がありませんでした。また、葉以外では樹種による差が昨年度より小さくなりました。

(2) スギ林の放射性セシウム濃度

汚染度の異なる川内、大玉、只見の各調査地のスギ林における放射性セシウム濃度は、昨年度と同様、現地の空間線量率が高いほど放射性セシウム濃度が高くなりました。また、いずれの地域でも、昨年度に比べ、葉の濃度が大幅に低下し、枝や樹皮の濃度は概ね半分に低下しました。材全体(辺材と心材の平均)の濃度は昨年度と同じく、他の部位と比べ極めて低く、ほとんど変化がありませんでした。

(3)森林全体の放射性セシウム蓄積量

・森林全体の放射性セシウム蓄積量は、昨年度と比べて大きな変化がみられませんでした。このうち、減少がみられたのは川内と大玉調査地のスギ林でした。また、蓄積量の内訳は、いずれの調査地も、昨年度に比べ、葉や枝、落葉層に蓄積する放射性セシウムの割合が減少しましたが、土壌中の放射性セシウム濃度が高くなったため、土壌に蓄積する割合が増加しました。

・一方、今年度から調査を実施した川内村の上川内調査地のスギ林では、土壌よりも落葉層に蓄積する割合が大きく、また、葉や枝に蓄積する割合が高い結果となりました。

(4)考察

・葉や枝、樹皮の放射性セシウム濃度が低下したのは、放射能の減衰や放射性セシウムが雨などで洗い流された(溶脱)ことなどによるものと考えられます。また、樹木からの溶脱や落葉層の分解により地表に移動した放射性セシウムが土壌表層に吸着保持されたため、土壌中の放射性セシウムの濃度も蓄積量も昨年度に比べ増加したと考えられます。

・森林全体の放射性セシウム蓄積量は、放射性セシウムの物理的減衰以上に減少していないことなどから、放射性セシウムの森林外への流出量は少ないと考えられます。

 

森林内の放射性物質の分布状況等は変化していくことが予測されるため、調査を継続するとともに、今回の調査結果を踏まえた、より効果的な除染方法等についての検討を進めてまいります。

1.調査の概要

東京電力福島第一原子力発電所の事故により、発電所周辺の森林地域に大量の放射性物質が降下しました。 農林水産省は、森林内の放射性物質の分布状況等を的確に把握した上で、森林の取扱い等の対策を検討するため、昨年度に引き続いて、独立行政法人森林総合研究所(以下「森林総研」という。)と連携し、発電所からの距離の異なる福島県内の3町村(川内村、大玉村、只見町)において、森林内の土壌や落葉層、樹木の葉や幹などの部位別の放射性セシウムの濃度を調査し、森林全体の放射性セシウムの蓄積量を推計しました。

2.調査内容

(1)調査箇所

・福島県川内村(スギ)、大玉村(スギ、アカマツ、コナラ)、只見町(スギ)の国有林。

・今年度から、川内村の上川内調査地(スギ)を新たに追加し、調査を実施しました。

(2)調査方法 ・各調査地において、空間線量率を測定したほか、落葉層の試料と、深さ別の4層の土壌(0-5,5-10,10-15,15-20cm)の試料を採取しました。 ・調査地周辺で対象樹種を各3本選び、伐採して、葉、枝、幹に分け、幹については樹皮、材に分けました。 ・部位別の試料は乾燥・粉砕した後、ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリ法で放射性セシウム134及び放射性セシウム137の濃度を測定しました。

3.調査結果及び考察

(1)大玉調査地における樹種別の放射性セシウム濃度について 大玉調査地における3 樹種(スギ、アカマツ、コナラ)の土壌や葉、枝など部位別の放射性セシウム濃度は、葉については樹種間で異なり、針葉樹林であるスギ林やアカマツ林で高く、落葉広葉樹林(コナラ)では低い濃度でしたが、その他の部位の濃度は、昨年度と比べると樹種間による差異はありませんでした。

また、3樹種とも、葉や枝、樹皮、落葉層の濃度は昨年度より大幅に低下(平均で6割低下)しましたが、材(心材と辺材)の濃度は他の部位と比べ極めて低く、昨年度と比べてほとんど変化がありませんでした。一方で、土壌の濃度は昨年度の2~3倍に増加しました。
(2)汚染度の異なるスギ林の3調査地における部位別の放射性セシウム濃度について 東京電力福島第一原子力発電所から距離が異なる川内、大玉、只見の各調査地のスギ林における放射性セシウム濃度は、昨年度と同様、現地の空間線量率に比例し、空間線量率が高いほど放射性セシウム濃度が高くなりました。

それぞれの調査地について、昨年度と比べると、葉の濃度は大幅に低下(平均で7割低下)し、枝や樹皮、落葉層の濃度も概ね半分に低下しました。

材全体(辺材と心材の平均)の濃度は他の部位と比べ極めて低く、昨年度と比べてほとんど変化がありませんでした。一方で、土壌(0~5cm)の濃度は昨年度の2~3倍に増加しました。

事故当時の放射性セシウムの沈着量が大きく異なるスギの3調査地ですが、土壌を除くいずれの部位も放射性セシウム濃度は低下しました。
(3)森林全体の放射性セシウム蓄積量と分布の変化について 森林全体の放射性セシウム蓄積量は、昨年度と比べて大きな変化がみられませんでした。このうち、減少がみられたのは川内調査地と大玉調査地のスギ林でした。

蓄積量の内訳をみると、土壌に65~77%が分布し最大の割合となり、落葉層は13~26%でした。葉と枝を合わせた割合はスギで9~14%でしたが、アカマツとコナラは4%以下でした。幹(樹皮と材)の分布割合は1%程度でした。

いずれの調査地、樹種の場合も、昨年度と比べると、樹木の葉や枝に蓄積する放射性セシウムの割合は半分程度以下に、落葉層に蓄積する割合も概ね半分に減少しましたが、材全体に蓄積する割合はほとんど変化がありませんでした。一方で、土壌に蓄積する割合は2~3倍に増加しました。

一方、今年度から調査を実施した川内村の上川内調査地のスギ林の蓄積量の内訳をみると、土壌(21%)よりも落葉層に蓄積する割合が大きく44%が分布し、枝と葉にそれぞれ19%、14%が分布しており、昨年度の他のスギ林の分布割合に類似した結果でした。

 

(4)考察

葉や枝、樹皮の放射性セシウム濃度が昨年度に比べ低下したのは、放射性セシウムの物理的減衰とともに、雨などにより放射性セシウムが洗い流された(溶脱)こと、また、スギやアカマツの常緑樹の葉が濃度の低い新しい葉に置き換わったことも一因と考えられます。樹木からの溶脱や落葉層の分解により地表に移動した放射性セシウムは、土壌表層に吸着保持されたため、土壌(0~5cm)の放射性セシウムの濃度も蓄積量も昨年度に比べ2~3倍に増加したと考えられます。 一方、川内村の上川内調査地のスギ林の放射性セシウムの分布割合は、落葉層に分布する割合が最大でしたが、この要因としては落葉層の堆積が厚いため、放射性セシウムの割合が多く、土壌への移動が進んでいないと考えられます。また、枝葉を合わせると3割が分布していましたが、これは枝葉の現存量が大きいためと考えられます。

森林全体の放射性セシウム蓄積量は、放射性セシウムの物理的減衰(1年間で約14%)以上に減少していないことなどから、放射性セシウムの森林外への流出量は少ないと考えられます。

4.今後の予定

農林水産省では、引き続き、森林総研をはじめとして他の機関とも連携しながら、森林内の放射性物質の分布状況等について継続的に調査を進めていくとともに、今回の結果を踏まえた、より効果的な除染技術の検証・開発など森林の除染や森林からの放射性物質の拡散防止等に向けた取組を進めてまいります。
<参考> ・平成23年12月27日付プレスリリース「森林内における放射性物質の分布状況調査結果について(第二報)」 http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/111227_2.html

<添付資料>(添付ファイルは別ウィンドウで開きます。)

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