環境省:「黄砂実態解明調査報告書(平成15~24年度)」の公表について(お知らせ)(お知らせ)

2014年3月27日

http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=17948

平成26年3月27日

「黄砂実態解明調査報告書(平成15~24年度)」の公表について(お知らせ)(お知らせ)

 黄砂は従来から黄河流域や既存の砂漠等から発生する自然現象としてとらえられてきたが、近年急速に拡大しつつある過放牧や農地転換などによる耕地の拡大も原因とされ、人為的影響により、その規模が拡大している環境問題として再認識されつつある。  また、黄砂は植物や交通機関に影響を与えるほか、呼吸器疾患等の健康影響の可能性が指摘されているが、飛来した黄砂の物理的、化学的な実態については必ずしも解明されていない。さらに、黄砂の飛来と同時に、中国大陸における産業活動に伴う人為的発生源からの影響も懸念されている。  そのため、環境省では、平成14(2002)年度から、黄砂の飛来実態を科学的に把握するために、黄砂飛来時に国内の複数地点で一斉にエアロゾルを捕集し化学成分の分析を行うなど黄砂実態解明調査を実施してきた。  本報告書は、わが国における黄砂エアロゾルの飛来状況を科学的に把握するとともに、わが国に飛来した黄砂の実態解明に資することを目的として、平成24(2012)年度の黄砂の状況を整理するとともに、平成15(2003)年度から平成24(2012)年度に飛来してきた黄砂を中心にその状況をまとめたものである。

1.「黄砂実態解明調査報告書(平成15~24年度)」の概要

(1)黄砂等の飛来状況

[1]気象台発表の黄砂日

平成15(2003)年度から平成24(2012)年度までの気象台発表黄砂日数は、平成15(2003)年度から平成17(2005)年度まで年々増加していたが、平成20(2008)、平成21(2009)年度と減少し、平成22(2010)年度に再び増加した。しかし、平成23(2011)、平成24(2012)年度は再び減少している。観測地点毎の黄砂日数では、上位は九州、中国地方が占めており、九州、中国地方への黄砂の影響の大きさを示している。

図1 黄砂観測日数の経年変化 図1 黄砂観測日数の経年変化

図2 黄砂日の地点別日数 図2 黄砂日の地点別日数

[2]気象台発表の煙霧日

黄砂と同様に、粒子の影響で視程の低下をもたらす煙霧について、平成15(2003)年度から平成24(2012)年度までの10年間の年間延べ日数を示した。煙霧は平成17(2005)年度を最高に、それ以降は減少の傾向が続いている。煙霧延べ日数の経月変化は、全国では4~7月が多く、12、1月が少なくなっている。  地域別では、関東では7、8月に九州と比較して多くなっている。観測地点毎の煙霧日数では、関東・関西の都市が多くなっている。

図3 煙霧観測日数の経年変化 図3 煙霧観測日数の経年変化

図4 煙霧日の全国での経月変化と関東・九州での経月変化 図4 煙霧日の全国での経月変化と関東・九州での経月変化

図5 煙霧日の地点別日数 図5 煙霧日の地点別日数

(2)成分濃度による黄砂の特徴

平成15(2003)年~平成24(2012)年度に黄砂実態解明調査で、黄砂日を中心に採取・分析された項目について、成分ごとに整理した。

[1]浮遊粉じん(TSP)

ハイボリウムエアサンプラ―(HV)で採取されたTSPとその分析項目について、相関行列を算出した。その結果、TSP濃度とはAl、Feなどの金属類との関係が大きかった。そこで、TSPとAlの関係をみると、黄砂時にAl濃度が上昇していることが分かった。

[2]イオン成分

微小粒子のイオン成分の相関行列では、SO42-と NH4+、SO42-とK+ 、Mg2+とCa2+などに高い相関関係がみられていた。SO42-当量濃度とNH4+当量濃度の関係では、相関係数が高く回帰式の傾きもほぼ1であることから、黄砂時は(NH4)2SO4として存在していることが推測された。微小粒子中のSO42-濃度が15μg/m3を超していた3事例は、いずれも中国沿岸部からの気塊の流れがみられた。

[3]PAHs成分

PAHsは、ベンゾ[a]ピレンなど11種類の分析が行われている。PAHsの成分として最も高いのはベンゾ[b]フルオランテンであった。黄砂観測時で且つTSP濃度が100μg/m3以上の高濃度を示したときと、黄砂非観測時でTSP濃度が50μg/m3以下の濃度のときを比較すると、黄砂時には濃度の上昇が観測されていた。PAHs(合計量)が相対的に高い日(2000pg/m3超)の後方流跡線を集約すると、黄砂時特有のモンゴル方向からの流れが主なものであるが、北京、遼東半島、韓国を経由してきているものが多く、また中国沿岸部からの流れもみられた。

[4]農薬成分

農薬類はガス類も含めて採取されており、ジクロルボスなど17種が分析された。濃度が高いのは、ジクロルボス、フェニトロチオン、ダイアジノンであるが、黄砂による顕著な濃度上昇はみられず、国内での平均的な濃度との差も明確ではなかった。

(3)黄砂・煙霧の特徴

大規模黄砂・大規模煙霧※1時の後方流跡線の経路について整理したところ、黄砂が主にモンゴル及び中国内陸部を通過するものが中心であり、大規模煙霧は中国沿岸部及び韓国を通過するケースが多くみられた。さらに、通過位置を緯度5°×経度10°のメッシュに分けて算出すると、黄砂が主に内陸部から沿岸部を経由していること、一方、煙霧は中国沿岸部と韓国経由がほとんどであることが分かった。

図6 大規模黄砂時の後方流跡線の経路 図7 大規模煙霧時の後方流跡線の経路

大規模黄砂が日本で観測された時に、それ以前、どの地域で砂塵嵐が発生したかをまとめたところ、砂塵嵐の発生地域は、モンゴル全域、ゴビ砂漠を含めた内モンゴル高原地域など中国大陸の内陸部を広く占めていた。大規模煙霧が日本で観測された時の東アジア地域で観測された煙霧は、韓国、中国沿岸部で同時期に煙霧が観測された事例が多くみられた。  大規模黄砂時と大規模煙霧時のPM2.5/SPM比をみると黄砂時は平均で0.50であるが、規模が大きいものでは0.3近くまで下がっていた。また、煙霧は平均で0.79あり、黄砂時とは大きな差がみられた。

※1…
日本全体での黄砂観測地点が約60地点であることから、その過半である31地点以上で観測された事象を大規模黄砂・煙霧として取り扱うこととした。

(4)黄砂・煙霧時のPM2.5濃度

黄砂は、PM2.5の環境基準達成に大きな影響を与えており、また、越境による煙霧も、黄砂と同程度かそれ以上に大きな影響を与える可能性があると考えられる。そこで、平成15(2003)年度から平成24(2012)年度までの黄砂、煙霧の観測から、黄砂・煙霧とPM2.5濃度との関係を検討した。

[1]黄砂・煙霧時におけるPM2.5日平均値35μg/m3の超過

平成15(2003)~平成21(2009)年度までは環境省による13地点、平成22(2010)年度から平成24(2012)年度は自治体による測定局から各県1局を選び集計した。全体でのPM2.5の日平均値35μg/m3の超過率は4.1%であったが、黄砂時は40.1%、煙霧時は28.1%と高くなっていた。また、日平均値が35μg/m3を超えた日数の経年変化をみると、黄砂時の超過日数は大きく変わっていないが、煙霧時の超過日数の減少とともに、日平均値が35μg/m3を超えた全体の日数も減っていた。

図8 黄砂日、煙霧日のPM<sub>2.5</sub>平均濃度と日平均値が35μg/m<sup>3</sup>を超えた割合 図8 黄砂日、煙霧日のPM2.5平均濃度と日平均値が35μg/m3を超えた割合

図9 PM<sub>2.5</sub>日平均値が35μg/m<sup>3</sup>を超えた日数の推移 図9 PM2.5日平均値が35μg/m3を超えた日数の推移

[2]黄砂・煙霧時のPM2.5成分濃度による発生要因の検討

環境省が実施してきたPM2.5成分濃度全国調査の結果をもとに、黄砂・煙霧時のPM2.5環境基準超過の要因を検討した。対象としたデータは、全国14地点で平成15(2003)年から平成22(2010)年までの8年間、四季に採取したもの。このデータについて、黄砂・煙霧日の抽出を行った。 平均成分組成は黄砂・煙霧で違いがみられ、黄砂日を抽出した結果では、全てのデータを対象とした時と比べて主に金属類で構成されていると思われる成分(others)の割合が増えていた。また、関東と九州の煙霧時においては、九州ではSO42-が多くなっているのに比べ、関東ではNO3-、OC、ECが多いというように組成の違いが出ていた。

図10 全体及び黄砂時の平均成分構成 図10 全体及び黄砂時の平均成分構成
図10 全体及び黄砂時の平均成分構成
図11 関東と九州の煙霧時の平均成分構成 図11 関東と九州の煙霧時の平均成分構成
図11 関東と九州の煙霧時の平均成分構成

2.今後の対応

[1]
今後、汚染の混合について、その成分、PM2.5への影響など、さらに多くの事例を解析し、空間的な把握や汚染経路などの詳細を明らかにしていくとともに、汚染の混合や成分にも着目し検討を進めていく。
[2]
全国においてPM2.5の常時監視局の拡大、成分分析データの蓄積を進めることにより、PM2.5濃度の上昇に対する黄砂の寄与、長距離輸送された気塊による煙霧の寄与を明らかにしていく。
「黄砂実態解明調査報告書(平成15~24年度)」は、以下を御参照ください。  http://www.env.go.jp/air/dss/torikumi/chosa/rep5.html

連絡先

環境省水・大気環境局大気環境課 直通:03-5521-9021 代表:03-3581-3351 課長   :難波 吉雄 (6530) 課長補佐:後藤 隆久 (6556)