有害化学物質削減ネットワーク設立趣意書(2002年4月)

有害化学物質削減ネットワーク設立趣意書(2002年4月)

はじめに

 今日の物質的に恵まれた豊かな生活の中で私たちの多くが「化学物質」に対し漠然とした不安を感じています。「身の回りにはどんな化学物質がどれだけ存在し、それらは安全なのだろうか?」誰もが気になるそのような問いかけに対し、どこを探しても答を見つけることはできません。なぜなら誰一人として明快にその答を示すことができないからです。多くの市民が化学物質に対し根強い不安を持つのも無理のないことです。

市民のリスク管理への参画

 これまで社会が化学物質をどう管理するかは、もっぱら行政、産業界、学識経験者などのいわゆる専門家に委ねられていました。使われる化学物質の数も量も限られ、それらの有害性も比較的明白であった時代にはそれでも良かったかも知れません。しかし、過去半世紀の間に状況は一変しています。化学物質の生産量は今なお急激に伸び続け、さらに新たな化学物質が日々この世に送り出されています。気が付けば、今日日常的に生産されている化学物質の実に70%以上は人や環境に対する安全性データが十分そろっていないのです。(*1) もはや従来の化学物質管理の考え方では私たち自身や生態系の健康を守ることはできないところにきています。市民が積極的に化学物質の環境リスク(*2)管理に参加し、身の回りや地球全体のリスク削減に向け行動することが求められる時代なのです。

PRTR制度の開始

 わが国では平成11年7月に「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(PRTR法)(*3)が公布されました。平成13年度より事業者等による有害化学物質の環境への排出量及び移動量の把握と国への報告が始まり、その集計結果は翌年度に公表されます。本制度にはいくつかのねらいがありますが、市民にとっては化学物質のリスク管理に参加する上で非常に有用な手がかりを与えてくれます。このPRTR情報を市民が積極的に活用することが、産業や家庭からの有害化学物質排出量削減に大きな原動力となるのです。しかし、国が公表する大まかな集計情報では、近隣の特定地域の情報、人の健康や生態系への影響などをはじめとする市民の多様な関心に十分応えることは期待できません。また、専門的知識を持たない市民にとっては、データから意味のある情報を読みとることは容易ではありません。

市民のための化学物質情報提供

 以上のような問題意識を共有する様々な分野の市民団体等に所属する有志が、市民に向けてPRTR情報を中心とする化学物質情報を提供する「有害化学物質削減ネットワーク」(Toxic Watch Network)を設立することとなりました。本組織は市民の立場から、特定の主義主張に偏ることなく、PRTR関連情報をインターネット上のホームページを中心として、できるだけわかりやすく提供することを使命とします。一人でも多くの市民が化学物質問題に関心を持ち、環境リスク削減に積極的に参加することによって、持続可能な社会の実現により近づくことを願っています。

(*1) 1997 “Toxic Ignorance” Environment Defense Fund