被災地の化学物質による土壌汚染調査の報告

Tウォッチ理事長中地重晴

はじめに
 昨年3 月11 日に発生した東日本大震災から、ほぼ1年が経とうとしているが、地震と大津波で破壊された被災地のがれきの片づけは、続けられている。Tウォッチでは、地震直後の3 月末には津波で破壊された工場の普及作業の際に有害物の飛散があるのではないか。がれきの片づけに携わる人たちの作業の安全のために、津波で被災したと考えられる工場のPRTRデータを整理し、表と地図情報をウェブサイトで、公表した。
 また、福島原発からの放射能汚染に対して、食品や土壌の放射能濃度を市民向けに測定する活動を5 月20 日から開始した。7月には三井物産環境基金の震災復興活動助成を獲得することができ、被災地の環境調査を開始した。
 被災地域の環境問題は3 つあると考えている。 一つ目は津波で被災した工場からの有害物質の流出。二つ目は地震で倒壊した建物からのアスベストの飛散、三つ目は福島原発事故による放射能汚染である。これに対応する活動を取り組んできた。本稿では、一番目の有害物質の流出について報告する。

懸念されたPCBの流出について
 有害化学物質の汚染ということでは、現在、有害廃棄物として保管が義務付けられ、特措法で処理が進められている高濃度のPCBが含有する高圧トランスや大型コンデンサーの工場からの流出が、心配された。環境省は地震の翌日には、通知を出し、PCBの保管状況の確認を呼びかけた。津波で工場が破壊され、PCBが山のほうに行ったのか、海に流れたのか、土壌汚染が懸念された。
 同様に、PRTR届出対象工場が青森県の八戸から千葉県旭市まで、全部で364 工場が津波で被災したと推測できたので、工場で使用中、または、保管されていた有害物質の相当量が工場から流出したと考えられたので、工場周辺の土壌汚染が懸念された。環境省の有害物質のモニタリング調査は、河川や湖沼などの公共水域の環境基準を満たしているかどうかの定期モニタリング実施地点が中心で、工場周辺という特異な地域に着目して、モニタリングされていなかったので、Tウォッチの独自調査を実施することにした。
 10 月に入って、環境省はPCBの流出状況について、調査結果(表1)を公表したが、意外にも高濃度のPCBの流出は少なく、安心できた。
 表1 PCBの流出状況調査(環境省公表データ)
 

Tウォッチの調査概要
 三井物産環境基金の助成金支給が決定したのを受けて、8 月から被災地域の工場の破壊状況と土壌の採取を開始した。Tウォッチの会員団体である「あいコープみやぎ」の協力を受けて調査を実施した。8 月に予備調査として、宮城県名取市、仙台市、七ヶ浜町、東松島市、石巻市を訪問した。9 月には、宮城県気仙沼市、岩手県陸前高田市、大船渡市、釜石市を見て回った。石巻市の日本製紙石巻工場のような大規模な工場が壊滅的な打撃を受けていたことなどを確認した。
 10 月には、宮城県仙台市から南下し、福島県相馬市、南相馬市、飯館村などを訪問した。がれきの堆積場では、9 月に入って、可燃性ガスの発生、自然発火による火災が起きており、がれきの堆積場も合わせて視察した。
 本年1月末には、福島県いわき市、茨城県鹿嶋市を訪問し、津波被害のあった臨海工場地帯をほぼ視察できたと考えている。

仙台港南で鉛による土壌汚染を発見
 9 月に実施したTウォッチの調査では、仙台市、石巻市、気仙沼市、大船渡市で、土壌を採取した。 採取した土壌の調査結果を表2 に示す。分析項目は重金属類とPCBとダイオキシン類であった。 当初懸念されたPCBについてはいずれも不検出であった。ダイオキシン類も最大62pg-TEQ/gで、環境基準を超えるものはなかった。
 表2 では、ふっ素が石巻市で採取したヘドロから、環境基準(0.8mg/L)をわずかに超えて検出されただけであった。11 月に追加で採取した土壌から鉛が環境基準を超えて検出された。仙台港の南側蒲生地区の中野小学校の近くの工場の土壌から、溶出試験で、0.026mg/L(環境基準0.01)、含有量試験で、6,200mg/kg(同150)と比較的高濃度の鉛の汚染が見つかった。また、ダイオキシン類も590 pg-TEQ/g と環境基準は下回ったものの高濃度で検出された。
 周辺への汚染の拡大が懸念されたので、1 月に追加の調査を実施した。鉛の土壌汚染が検出された場所周辺6 地点で、鉛のみ調査したが、いずれも環境基準以下であり、ごく狭い範囲の土壌汚染であると考えられた。
 T ウォッチとしては、今後も継続して調査する予定である。
  9 月採取分の測定結果(PDF版)