2012年8月 SAICM 国内実施計画(案)に対するTウォッチの意見 | |||
2002 年、第2 回持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)(ヨハネスブルクサミット)で決議された「化学物質が、人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されることを2020 年までに達成する」という2020 年目標を達成するための戦略「国際的な化学物質管理に関する戦略的アプローチ(SAICM サイカム)」の国内実施計画案がようやく政府から提示され、パブリックコメントにかけられ、36 の作業領域にわたる273の行動項目に対する世界行動計画に対する日本の取組状況も公表されている。 (http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=15477) Tウォッチでは、パブリックコメントに対して意見を提出したので、SAICM 国内実施計画(案)の目次を表1 に、
「第3 章 具体的な施策の展開―国内実施計画の戦略」等の概要及びTウォッチの意見の概要(指摘箇所を下線で示し、意見は網掛で示す)を以下に記述する。(以下、青字部分が意見) なお、パブリックコメントの結果は8 月29 日開催される第2 回化学物質と環境に関する政策対話等で発表され、最終的なSAICM 国内実施計画は9 月17-21 日に開催される第3 回SAICMフォローアップのための国際化学物質管理会議(ICCM アイシーシーエム3)(ナイロビ)にて発表される予定である。 第3章 具体的な施策の展開― 国内実施計画の戦略 ・・・政府、省庁連絡会議の考え方をまとめただけで、どの省庁や関係者が、いつまでに、何をどのようにするのか、計画としては具体性を欠くので、国内実施計画といえないのではないか。具体的な行動計画を指し示すべきである。
1.基本的考え方 (1)目標 @WSSD2020 年目標の達成 A「包括的な化学物質対策」の確立と推進 B消費者・労働者・事業者・民間団体・行政等様々 な主体によるリスク低減行動 C国際協力・国際協調の一層の推進 ・・・省庁縦割りの化学物質管理には、隙間が生じるので、この間、市民団体が提案しているように化学物質政策基本法を制定し、その下に、一元的に、化学物質の登録とリスク管理を行う制度に切り替えるべきである。再度、化学物質管理のための基本法の制定と法制度の見直しを求める。
(2)主体間の連携 @ 国 人材育成・各種支援策による地方公共団体・国民・NGO/NPO・労働団体・事業者による取組の基盤整備。リスク低減制度構築・運用。地域における取組推進の支援策・基盤整備の推進。様々な主体の対話場設置、意見交換・合意形成を推進。 A 地方公共団体 地域の状況に応じた法・条例の施行等。事業者による化学物質管理の一層の促進、地域でのリスクコミュニケーションの推進等に期待。 B 国民 化学物質のリスクに関する的確な情報の入手・理解への努力。環境低負荷商品等の選択・廃棄物の適正処理等、生活で使用する化学物質に関する健康リスク・環境負荷等低減し、リスク回避行動へ期待。 C NGO/NPO 化学物質のリスクに関する客観的で平易な情報提供・アドバイス等積極的取組。国民・事業者・行政等各主体の活動のつなぎ手として期待。 D 労働者 法規制遵守。労働災害防止措置への協力に期待。農業者等の農薬の適正使用。 E 事業者 関係法令遵守。化学物質のリスクの評価・管理、情報提供、地域住民との対話等取組への期待。特に、健康・環境影響等情報の入手可能化への積極的取組に期待。具体的には、法規制遵守、行政と連携しつつ、自主的取組の継続推進に期待。 2.具体的な取組事項(重点的取組事項) WSSD2020 年目標の達成に向け予防的取組方法に留意し、国民健康・環境を守るという視点から、労働者健康、脆弱集団の健康・影響を受けやすい環境に対する悪影響を防止及びSAICM の考え方を踏まえ、化学物質ライフサイクル全体を通じたリスク低減を図る。様々な対策手法の組合せ、関係府省の連携・協力と情報共有の一層強化・推進、包括的化学物質対策確立・推進を図り、国民の安全を確保し、国民が安心して生活できる社会の実現を目指す。以下は重点的取組事項。 ・・・現行の化審法での優先評価物質リストを作成し、リスク評価、規制などの措置を2020 年までに達成できるのか、その工程表を示すべきである。このままでは、いつまでに完了するのかわからない。労働環境に関する取組みとしては、この間問題になっている職場で使用されている有害化学物質による胆菅がんの問題を教訓にし、化学物質のリスク評価や用途規制のやり方を見直すべきである。
(1)科学的なリスク評価の推進 科学的なリスク評価を効率的に推進。新たな手法の開発・実用に努力。 一般用途(工業用)の既存も含むすべての化学物質:スクリーニング評価・優先評価化学物質指定(化審法)。2020 年までに優先評価化学物質特定のリスク評価実施、高リスク物質に対し必要な規制措置実施。農薬:リスク評価実施(農薬取締法)水産動植物被害防止・水質汚濁に係る農薬登録保留基準設定、モニタリング調査実施、必要に応じリスク管理措置、農薬使用者安全確保措置。労働環境:労働者健康障害リスク評価実施、他制度と連携しリスク評価対象物質選定方法を検討。非意図的生成物質・排出経路等不明物質・法の隙間物質:人健康・環境影響懸念物質群絞込、初期的リスク評価実施。一般環境中化学物質の残留状況:化学物質環境実態調査、有害大気汚染物質モニタリング調査、公共用水域及び地下水の水質測定、農薬残留対策総合調査等実施、リスク評価に活用。特にPOPs は経年的な環境残留状況監視(POPs条約国内実施計画)。人露量モニタリング:2011年度より血液・尿中POPs、重金属等モニタリング開始。効率的なリスク評価手法としてQSAR・カテゴリーアプローチの活用検討。ライフサイクル全段階での化学物質のスクリーニング・リスク評価手法、海域におけるリスク評価手法、トキシコゲノミクス等の新手法検討。農薬の水産動植物以外の生物・個体群・生態系全体を対象とした定量的評価に基づく新リスク管理の検討。環境基準等未設定優先取組物質の定量評価手法の高度化・目標値設定。水質環境基準・指針値の必要に応じた見直。
(2)ライフサイクル全体のリスクの削減 関係法令・制度・施策間の有機的連携確保し様々な手法の組合せにより以下の施策を推進。化学物質の製造・輸入・使用:化学物質審査規制法・農薬取締法による適切な規制。 ▼一般用途(工業用)化学物質:2011 年度導入した包括的な化学物質管理制度運用(化審法)、流通過程での適切な化学物質管理実施。 ▼農薬:リスク評価実施(農薬取締法)、水産動植物被害防止・水質汚濁に係る農薬登録保留基準設定、モニタリング調査実施、必要に応じリスク管理措置、農薬使用者安全確保措置。公共施設内植物・街路樹・住宅近接場所での農薬の飛散・周辺住民等健康被害防止措置への指導(「住宅地等における農薬使用について」・「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」)。 ▼労働災害・労働者健康障害防止:化学物質ばく露等防止対策の適切な実施(労働安全衛生法)。建築物解体時の労働者の石綿ばく露防止対策推進・石綿含有製品輸入等禁止徹底化。 ▼家庭用品製造・輸入・販売:地方公共団体と連携し、家庭用品規制法により規制。事業者による適切な製品管理の推進。健康被害高蓋然性物質の家庭用品規制法による措置。 ▼化学物質の環境への排出: @化学物質の環境排出量・廃棄物事業所外移動量等の事業者届出データの集計・公表、個別事業所データの公表・開示、届出対象外排出源からの排出量推計・公表等実施による事業者による自主的管理改善促進(PRTR 法)。 A有害大気汚染物質:大気環境モニタリングによる大気汚染状況把握、 排出実態把握、排出抑制技術情報収集等、事業者による自主的排出抑制対策推進。ベンゼン等指定物質については、必要に応じ事業者へ排出施設状況等報告請求、排出・飛散抑制勧告実施。 B排水規制・地下水汚染対策等実施により排出削減(水質汚濁防止法)。指導事例・ガイドライン等の情報提供等により地方公共団体支援。 Cダイオキシン類:ダイオキシン類対策特別措置法・「我が国における事業活動に伴い排出されるダイオキシン類の量を削減するための計画」による対策推進。 D非意図的生成物質、排出経路・ばく露経路等不明物質等:初期的リスク評価、必要に応じた対策実施。 ▼化学物質・化学物質含有製品のリサイクル・廃棄段階等:地方公共団体と連携し、廃棄物処理法に基づき適正処理推進、有害性・環境残留懸念物質について廃棄時のリスク検討、必要に応じ特別管理廃棄物指定。ライフサイクル各段階でのリスク管理方法について必要に応じ見直検討。排出者責任・拡大生産者責任の徹底・製品製造段階時の環境配慮設計推進。有害性有機フッ素化合物・臭素系難燃剤等含有製品の適正な取扱・廃棄物処理に向けた代替・選別手法・適正処理方策等の必要な措置の検討。過去製造有害化学物質・汚染土壌等:PCB 廃棄物特別措置法、土壌汚染対策法等により処理等対応。有害物質含有使用済電気電子機器:輸出時の中古品判断基準の明確化や有害特性分析方法等検討。 ▼事故時・災害時等対応:地方公共団体と連携し、以下の施策を講じる。 @有害物質等の環境中への排出:緊急の必要時には国が指示、大気汚染防止法・水質汚濁防止法等による措置。 A労働災害発生:事業者による労働基準監督署への報告。重大災害に対し国による災害調査実施、違反是正・再発防止指導等。 B化学物質の危険性・事故時の対処方法等対する情報提供、地方公共団体対応事故事例等情報の共有等検討。 ▼事業者による有害化学物質使用・排出抑制、より安全な代替物質への転換等のための指針策定、グリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)促進、代替製品・技術・GSC 促進研究開発、代替製品・技術に関する情報公開・提供による消費・投資行動の誘導等の措置による環境整備。
(3)未解明の問題への対応 とりわけ、国民の健康・環境保護の視点に立ち、化学物質のばく露が子ども・妊婦等の脆弱な集団や感受性の高い集団の健康に与える影響に留意し取組む。 ▼子どもの健康影響:2010 年度より「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」実施、2011 年より3 年間で10 万人の妊婦募集・登録・生体試料採取保存・分析、子どもが13 歳になるまで質問票等による追跡調査実施。化学物質の子ども影響評価研究・子ども健康影響環境要因解明研究実施。 ▼化学物質の内分泌かく乱作用:「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応−EXTEND2010−」、化学物質の子どもへの影響評価研究等の推進、OECD による試験法開発等に参加等により評価手法確立・作用影響評価促進。 ▼微量化学物質による健康影響:知見収集・整理、病態・原因の把握・解析等のための調査研究促進。 ▼予防的対応を念頭にリスク管理・評価手法高度化を図る観点から、化学物質等感受相違の違いを考慮したリスク管理等、新課題に関する調査・研究を促進。 ▼化学物質複合影響・化学物質の個体群・生態系・生物多様性への影響:科学的知見集積・機構解明・評価方法検討・開発等。複合影響:課題の整理、調査研究・評価方法検討等。▼ナノ材料:厚労省・経産省・環境省で2007 年度以降、通知の発出やガイドライン等公表。適切な管理に向けた検討・取組推進。ナノ材料評価・試験方法開発等国際的取組に参加し、リスク評価手法確立・評価実施を推進、厚生労働科学研究(ナノマテリアルのヒト健康影響の評価手法に関する総合研究)、経済産業省委託事業(ナノ材料の安全性評価技術開発) 等最新知見収集・リスク管理枠組整備検討。
(4)安全・安心の一層の増進 各種環境調査・モニタリング等実施、人ばく露量モニタリングを含め新手法開発・導入を推進。濃度予測モデル等の高度化・用途別排出係数整備推進。PRTR 制度の対象化学物質の排出量等:事業者による届出データの精度向上支援、届出外排出量推計方法精度改善、データ・各種モニタリング結果等より化学物質管理状況の継続的検証・化学物質対策推進。 ▼リスクコミュニケーションの一層の推進(化学物質のリスク・リスクコミュニケーション情報整備、平易な資料作成・提供、地方公共団体へのPRTR データ等に関する最新情報・ツール等の提供等、化学物質リスク評価を含めた人材育成・環境教育の支援・推進。化学物質アドバイザー活用等による地域リスクコミュニケーション促進支援。)サプライチェーンにおける化学物質含有情報伝達(消費者への情報提供含む)のための枠組整備・中小企業支援等。「職場のあんぜんサイト」(厚労省ホームページ)、「GHS 関連情報サイト」(NITE ホームページ)設置、GHS モデルラベル・(M)SDS 情報、国によるリスク評価等の情報掲載、事業者の活用促進。 ▼製品中の化学物質:サプライチェーンにおける労働者保護・消費者保護・環境保全の観点を含めた統一的危険有害性情報伝達・提供等進め方検討。 家庭用品:重大製品事故中、推定原因化学物質の公表、パンフレット等による事故防止指導・啓発。 都道府県・保健所設置市・特別区における家庭用品試買検査・結果取りまとめ・情報提供。
(5)国際協力・国際協調の推進 国際条約遵守、条約に基づく国際的な活動に貢献。POPs 条約取組推進。POPs 条約・ロッテルダム条約・バーゼル条約連携強化活動推進。2013 年水銀条約制定に向けた政府間交渉に積極的貢献、国内担保措置。UNEP 世界水銀パートナーシッププログラム等を通じ国際的水銀対策推進。OECD 等国際的枠組下での評価手法開発・国際調和、データの共有等推進。エコチル調査:諸外国の類似調査(全米子ども調査等)・WHO 等とともに健康影響・ばく露測定等の調査項目の共通化・標準化等連携・協力推進。 ▼アジア地域:我が国の経験・技術を踏まえた積極的情報発信、国際共同作業、技術支援等実施、化学物質適正管理推進、そのための制度・手法の調和・協力体制構築推進。東アジア地域のPOPs 在状況推移把握・将来的協力体制構築のため、2002 年度から東アジアPOPs モニタリング・ワークショップ実施。
(6)今後検討すべき課題 ICCM2 で指摘された「新規の課題」の製品中化学物質(リスク削減、適切な製品表示を含めた情報伝達、ナノ材料、電気電子機器廃棄物、塗料中鉛):様々な実施主体による取組推進、ICCM3 等国際的議論等を踏まえ、必要に応じて更なる取組を検討。化学物質等による室内空気汚染対策(「シックハウス問題」):生活環境における新規代替物質等(殺虫剤含む)問題が懸念され、室内空気汚染実態調査等実施・検討。農薬等の生態系影響・シロアリ駆除剤等:緊急性・社会的必要性と実施可能性の両面を考慮し「化学物質と環境に関する政策対話」での議論等も踏まえ、優先度を付けながら検討、実施に移す。 第4章国内実施計画の実施状況の点検と改定2015 年開催予定ICCM4 に先だち関係省庁連 絡会議にて実施状況点検・結果公表。SAICM 見直し・新規課題に係る議論、国内関連計画の改定等を踏まえ必要に応じて関係省庁連絡会議にて本国内実施計画改定。改定等に際し関係各主体の意見聴取・パブリックコメント実施 その他Tウォッチ意見 ・「第1 章3.国内実施計画の対象について」の本国内実施計画について、第四次環境基本計画・化学物質と環境政策対話・パブコメ意見を踏まえ具体的に記述した旨に対する意見:「化学物質と環境政策対話」で様々な主体による意見交換を行っているのであるから、その内容を紹介すべきである。特に、市民セクターから提出されている意見を紹介すべきである。また、利害関係者からの意見を取り上げる場合の基準を示すべきである。 ・「第2 章1.(3)国以外の主体による関連の取組の例」の地方公共団体の取組例についての意見:化学物質管理に関する条例など取組み自治体名を明らかにしたほうが、他の自治体や市民の参考になると思う。市民が住んでいる自治体の取組みに気付く、利用しようとするきっかけになるので、自治体名を公表すべきである。 ・関係省庁に関する意見:消費者製品による有害物質の表示という面では、公正取引委員会が所管する「景品表示法」も、一定関わりがあるので、追加すべきである。
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