2012年3月 第四次環境基本計画案に対するTウォッチの意見 |
環境基本計画は、環境基本法に基づき政府が作成する環境の保全に関する総合的・長期的施策の計画で5年程度を目途に見直しを行っている。中央環境審議会は、第四次環境基本計画案を作成し3月2日に公表・国民の意見募集を求めた (http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=14910)(4月27日に閣議決定)。 化学物質に関する計画は、「第2部第1章第9節包括的な化学物質対策の確立と推進のための取組」に記述されており、これに関してTウォッチでは意見を提出したので、以下に第四次環境基本計画案の概要及びTウォッチの意見の概要(指摘箇所を下線で示し、意見は青字で示す)を記述する。 「「化学物質と環境に関する化学物質政策対話」がスタートしました!」(p.3)に述べられているように、先日提案されたSAICMサイカム国内計画案の内容は、第四次環境基本計画をベースに基本計画に含まれない労働安全関係等がわずかに付け足された形となっている。
第2 部第1 章第9 節 包括的な化学物質対策の確立と推進のための取組 1.取組状況と課題(ここではタイトルのみ) (1)総論 (2)環境リスクの評価 (3)環境リスクの管理 (4)安全・安心の一層の確保 (5)国際的な課題への対応
2.中長期的な目標 @WSSD2020年目標を達成する。 A「包括的な化学物質対策」の確立・推進を図る。 B消費者・事業者・民間団体・行政など様々な主体が、環境リスクを理解し、相互信 頼を深め、自身の役割を自覚し、リスク低減行動をとる。 C国際協調・国際協力の一層の推進、安全性確保のための国際的貢献。
3.施策の基本的方向 (1)基本的方向性 上記の目標の達成に向け、以下に示す基本的な方向に沿って対策を進める。 @科学的環境リスク評価の効率的推進。 新手法の開発・実用化。 Aリスク評価結果に基づくリスク低減措置によりライフサイクル全体のリスク 削減。 B予防的取組方法の考え方に立った未解明問題への的確な対応。 ・・・一部の専門家だけでなく広くステークホルダーの意見も聞きながら対応することが重要。 C様々な主体が環境リスクを理解・共有し信頼関係を高め、環境リスクに関し自己判断し、各々の活動を通じて環境リスク低減の基盤を整備。 D国際的な枠組下でのSAICM に沿った国際的な観点による化学物質管理への取組。アジア地域の国際協力の推進。 ・・・計画の構成や優先順位に整合性がない(内容・順は「2.中長期的目標」対応していない)。WSSD2020年目標達成と今までの計画の実施状況とのギャップ分析をすれば、科学的リスク評価が@に来ることはありえない。Aが@の後に位置づけられているので、並列するのは論理的におかしい。また、科学的リスク評価が不確実なものへのリスク管理の進め方の内容が、B:予防的取組方法の考え方であるとしても、「未解明の問題に的確に対応する」のイメージを例示すべき。C:リスクコミュニケーションと思われるが、それはリスク管理全体・すべての段階でなされる内容で、それがわかるような明確な書き方にすべき。 D:ここのみ「SAICMに沿って」と強調されるのは奇異(「SAICMに沿って」はすべてにかかるため)。したがって、例えば以下のように修正してはどうか。@予防的取組に留意する制度・運用手段開発。A科学的リスク評価の透明化と評価の効率的推進のための新手法の開発・実用化。B国民の健康・環境を守る観点に立った手法開発とそれによる包括的化学物質リスク削減。Cリスク削減のためライフスタイル全段階でのリスクコミュニケーションの実施、その結果を各主体が活動へ反映。Dライフサイクル管理の国際的視野での取組、生態系循環への配慮。国際協力推進。
(2)各主体の役割 @国 人材育成・各種支援策を通じた国民・NGO・NPO・事業者・地方公共団体の取組基盤の整備、環境リスク低減のための制度構築・運用。リスクコミュニケーションを含めた地域における取組推進のための支援策・基盤整備の推進。国民・事業者・行政・学識経験者等の様々な主体の対話の場の設置・対話の推進。 ・・・対話だけでは不十分で「参加」を推進することがSAICMの考えにも沿う。 A地方公共団体 地域状況に応じた法・条例の着実な施行等。事業者による化学物質管理の一層の促進・地域のリスクコミュニケーション推進等への重要な役割を期待。 B国民 環境リスクに関する的確な情報入手・理解への努力。環境低負荷商品の選択・廃棄物適正処理等、生活で使用する化学物質の環境負荷低減・環境リスク回避行動への期待。 ・・・市民団体の役割をこのように明記したことは評価できる。 CNGO・NPO 環境リスクに関する客観的で平易な情報提供・アドバイス等の積極的取組。 国民・事業者・行政等の各主体による活動のつなぎ手としての期待。 D事業者 関係法令遵守。環境リスクの自主的評価・管理、情報提供、地域住民との対話等取組への期待。特に、健康・環境影響等情報の入手可能化への積極的取組に期待。具体的には、法規制遵守、行政と連携した活動・自主的取組の継続推進に期待。
(3)重点的取組事項 (2)における役割を果たすため、国は以下のことに取り組む。 @科学的なリスク評価の推進 化学物質審査規制法及び農薬取締法に基づくリスク評価を推進。QSARの活用、ライフサイクル全段階でのスクリーニング・リスク評価手法、海域におけるリスク評価手法、トキシコゲノミクスなど新手法検討。農薬では生態系全体のリスク評価等検討。燃焼等により非意図的生成物質、排出経路・人曝露経路が不明確な物質など既存法令でカバーできない物質のリスク評価の実施。有害大気汚染物質の優先取組物質では環境目標値を設定、そのための定量評価手法を高度化。また、水質環境基準及び指針値の見直し。 Aライフサイクル全体のリスクの削減 化学物質審査規制法及び農薬取締法による製造・輸入・使用規制。 ・・・化学物質の製造。輸入・使用に関して、省庁縦割りの管理をしてきたために、隙間が生じ、同じ成分の農薬であっても農薬取締法以外のところで不適切な使用が行われてきたりした。そうした不十分点を克服するために、化学物質政策基本法を定め、2020年目標を達成するために、全ての化学物質を対象に総括的に管理する化学物質管理制度に改めるべきである。 化学物質管理法・大気汚染防止法・水質汚濁防止法・ダイオキシン類対策特別措置法・廃棄物処理法・PCB廃棄物特別措置法・土壌汚染対策法等により適正に対応。リサイクル・廃棄段階の拡大生産者責任徹底、製品製造段階からの環境配慮設計推進、輸入製品等中の有害物質の適正な取扱・廃棄物処理検討。大気汚染防止法、水質汚濁防止法等による事故時の措置。事業者によるグリーンケミストリー促進、代替品・代替技術開発、情報公開・提供等。 B未解明の問題への対応 予防的取組方法の考え方に立ち未解明問題に対応(化学物質曝露と子供健康影響調査、内分泌かく乱作用の調査研究・情報提供、化学物質複合影響・生態系への影響の機構解明・評価方法検討、ナノ材料リスク評価手法確立等。 C安全・安心の一層の増進 各種環境調査・モニタリング等実施、人曝露量モニタリング手法開発、濃度予測モデル等高度化、PRTRデータの曝露評価への活用、リスクコミュニケーション推進、消費者への情報提供等。 D国際協力・国際協調の推進 SAICMに沿った国際的な観点に立った化学物質管理への取組。関係府省連携による国内実施計画策定・実施。 国際条約遵守、水銀条約国際交渉への貢献、OECDの取組への参加、子どもの健康影響に関する国際協力推進。アジア地域での協力体制構築。 ・・・SAICMの国内実施計画の策定にあたっては、市民や事業者などすべてのステークホルダーの参加のもとに、意見交換し策定する。
4.取組推進に向けた指標 現時点で想定される主な指標(環境中の残留状況に係る指標) ・環境基準・目標値・指針値の達成率 ・各種環境調査・モニタリング実施状況(調査物質数、地点数、媒体数) ・長期間継続モニタリング実施物質の濃度増減傾向の指標化(環境への排出状況に係る指標) ・PRTR 制度対象物質の排出量・移動量(リスク評価に係る指標) ・化学物質審査規制法のスクリーニング 評価・リスク評価実施状況 ・・・いまの内容はあくまでも参考にとどめ、計画作成後、各主体の参加による手法により、計画倒れにならないような目標や評価指標を開発する。開発にあたっては、女性、子ども、青少年、高齢者、化学物質による健康障害を持つ者、母語が日本語以外の者などの参加を確保し、「成人健康男性」を標準とするモデルを社会全体の構成員や次世代にも配慮したモデルに変更すること。
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