福島原発事故によるセシウム汚染の広がりを考える T ウォッチ・放射能汚染測定結果報告会 Tウォッチ理事 井上啓 |
1 月29 日(日)13 時から、栃木県那須塩原市の「アジア学院」那須セミナーハウスで、昨年5 月から東京・亀戸の事務所で実施してきた「放射能汚染測定活動」の第一次報告会を開催しました。
有害化学物質削減ネットワーク(Tウォッチ)は、結成以来10 年、環境中に排出される有害化学物質の削減のために、環境汚染物質排出・移動登録制度(PRTR)公表データの有効活用を求める活動に取り組んできましたが、2011年3 月11 日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の炉心溶融、爆発事故という緊急事態に際し、巨大津波による東北・関東沿岸地域工場群からの有害化学物質の流出実態調査と福島原発からの放射能汚染対策への取り組みを開始しました。 7月には、三井物産環境基金東日本大震災復興助成金を得ることになり、東北地域の化学物質汚染調査と、食品や土壌の放射能汚染の測定活動を本格化することになりました。 今回の報告会は、これまでの測定データを集計し、これまでの活動でどのようなことが明らかになり、放射能汚染から身を守るためにどのような活動が必要か、測定器を共同で利用している各地の方々と情報を共有しながら、今後の放射能測定活動のあり方などについての意見交換をするために開催しました。 報告会には北は宮城県から南は神奈川県まで、約40 名の生産者や消費者が参加し、放射能汚染の現状への不安、被ばく低減のための努力や今後の農業生産への方法など、切実な意見が次々に出され改めてTウォッチ放射能測定活動の責任の重さを痛感しました。 まず、中地重晴理事長が開会のあいさつに続いて、Tウォッチの測定活動の経過、福島原発事故でもたらされた広域的放射能測定の現状、約600 検体にのぼる測定結果から見えてきた生活環境の汚染実態などについて報告しました。 5 月21 日から現在まで、NaI(ヨウ化ナトリウム)放射能測定器で、依頼測定と自主測定(助成事業の活動)で、土日を除く平日で1日約4検体の測定を実施(平均3.7 件/日)、測定時間は検体によって7200 秒、8000 秒、10800 秒および36000 秒で実施しています。測定濃度レベルは定量下限2 ベクレル/kg 程度まで可能で、測定対象は野菜、肉、飲料・水、茶葉、加工食品、果物、穀物、土壌、落ち葉、その他生活環境に係わる試料を測っています。 測定活動の目的は、放射能汚染は広範囲に存在し、地域ごとの汚染レベルも明らかになりつつあるが、汚染地域の被ばくをいかに低減させるかが課題であり、汚染の実態を把握し、汚染地域の農業を守る観点から、警告と対策を示していきたい。現在、独自測定活動は、@栃木県那須塩原市アジア学院、A埼玉県小川町、B神奈川県小田原市、C福島県川内村、D福島県二本松市および、いわき市等で実施しています。 アジア学院とあしがら農の会から活動報告 次に、Tウォッチの独自測定活動として共同 作業をお願いし、継続的に観測を行う定点観測地域から活動が紹介されました。最初に、アジア地域からの学生を受け入れ、自給自足、有畜複合,循環型有機農業の指導を実践している「アジア学院」の山口氏が、学院内のセシウム汚染とどう立ち向かっているか、汚染の測定を一つ一つ積み重ねながら少しでも汚染を少なくするためどのような努力をしているかなどについて報告しました。 全国の有機農業運動のモデル的活動を行っている埼玉県小川町も比較的低レベル汚染地域のモデルとして共同測定を実施してきました。この日「ぶくぶく農園」の桑原氏が海外出張ということで直接参加いただけませんでしたが、報告文書が配られ、小川町の有機農業研究会としての独自基準、キログラム当たり2 ベクレルという基本方針を守る努力を続けていることが紹介されました。 福島原発からは約300 qに位置する神奈川県小田原市「あしがら農の会」からは、5 月に採取し、精製した荒茶から約3000 ベクレルのセシウムが検出されたことから、その周辺の田や畑を耕し、消費者と共同で生産・消費活動をしている会としてこれまでの測定結果を踏まえながら、汚染の低減にむけた努力のため、今後Tウォッチと共同で継続的な観測を続けていきたいとの報告がされました。 新潟大学・野中教授、二本松での取り組みを報告 特別報告は、新潟大学農学部土壌学の教授で、にいがた有機農業推進ネットワーク共同代表の野中昌法氏から、福島県二本松市の「ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会」が三井財団復興基金を得て取り組んでいる「福島農業の復興」活動の取り組みについて講演いただいた。 野中氏は、みなさんと共に考えたいこととして、@みなさんは史上最大の公害の被害者である。A事故以前の状態があたり前で、耳に痛い情報でも現状を知り、情報を発信する。B農業県として、事故以前までに実践してきた福島県農業の食の安全・安心を主張する。C10 年・20年後、福島県が日本で最も安全な農産物を生産するまで情報を発信して、国民と協働して農業生産を行う。そのためには「不安を可視化して、生産者と消費者が共有化する」積極的な調査と情報の公開を行い、東京電力の責任を明確化しなければならないと訴えました。その上で、日本の農地、とくに福島県は里山資源と家畜堆肥を利用して土壌肥沃性を高めてきた。このような土壌からはセシウムの作物への移行が少ないことがわかってきた。降下した放射性物質は路地春野菜等に沈着・蓄積したが、土壌からの作物への吸収は小さく、夏野菜等には吸収されていない。 農の営みを継続することで放射能禍を乗り越えることができる。耕作努力により田畑のセシウムはかなり低下できる。土壌に混和されたセシウムはかなり強く土壌に保持され、作物への移行は当初懸念されていたよりもかなり低い。今後、注意しなければならないことは@水田では里山森林からの伏流水や用水を通したセシウムの流入を注意する。そのためには棚田近くの里山の手入れも必要となる。A土壌だけでなく、田面水に含まれるセシウムが稲の栽培期間を通して稲の上根からの吸収される可能性があるのでその期間の水管理を注意する。B用水路の上流やため池からの流入を防止する。C稲刈り以降、土壌肥沃性を高める。等の努力とが必要である。 生産者は「医食同源」「食農同源」が見える作り方を消費者に示し、発信するとともに、消費者は自分たちの食べ方、食の選び方が日本の「食」、ひいては「農業の未来」を決めることを自覚する、相互の連携が大切だと強調し、農の普通の営みが、地域と暮らしを救い、地域の自然と共生する農業が唯一、放射性物質の危機に打ち勝つことができる、と締めくくりました。 |