1.村田幸雄(WWFジャパン自然保護室シニアオフィサー)
スライド資料 :海外NGOによるホームページを使ったPRTR情報提供
2.槌田 博(有害化学物質削減ネットワーク Web担当)
当日資料 :有害化学物質削減ネットワーク 情報提供サイト
3.質疑応答
1 「海外NGOの情報提供Webサイトの紹介」(村田報告)について
【会場質問】
この海外の3つのウェブサイトのホームページは、市民の皆さんにどのように使われているのか。また、どのくらいのアクセスがあるか?
【村田】
アクセスの度合い程度については、例えば、Scorecardは1998年4月15日に発表され、最初の2週間のうちに200万件のヒットがあったそうだ。地球の友の場合もいきなり何万の単位で、今ほど化学物質排出情報への関心はなかった時代のことなので、たいへんな数だと思う。
【会場質問】
どのように使われていたかについては?
【村田】
問い合わせが来れば、情報が拾えるが、実態をつかむのは難しい。断片的には知り得ても全体的にどう使われているのかは把握しにくい。
【会場質問】
私は、アメリカの環境団体に行ったことがある。Scorecardを提供しているEnvironmental Defenseがどういうことやっているのかというと、社会的な公正、貧困。人種の分布、汚い工場とか汚い廃棄物が捨てられているところがどこにあるかをマッピングすると、人種的なマイノリティの人や貧困層というところにばっかりに押しやられているというような状況がアメリカでは明らかになってきた。 そういう意味では、CBE(Communities for a Better Environment)という団体のAzibuikeさんのような人に伺ってわかったが、結局、化学物質の情報そのままをなかなか地元住民の方にわかっていただくのが難しい。ところが、アメリカというのは公民権運動の長い伝統があるので、人種差別というのは非常に敏感。そういう化学物質情報を社会的公正の情報に変換をして、いま村田さんがご紹介されたランキングみたいなものに対して、非常に敏感に反応したという話は聞いたことがある。それで、なぜ黒人の多いところにこれがたくさんあるのか、汚い廃棄物の工場があるのか、削減してくれと当局と交渉をしていた。それが、私の知っている一つの典型的な使われ方かなっていう感じがしている。
【村田】
いま、その話を聞いて先ほどどう使われているかという質問に戻るが、私が紹介したのは、全国レベルで情報提供しているNGOで、アメリカの場合は、全国各地に化学物質の問題、人権などの問題に取り組んでいるNGOがたくさんあって、彼等がそれを使ってそれぞれの目的に応じた活用をしているようだ。ただ、そういった内容はそれほどPRTR情報を提供している団体にフィードバックされていないような気がしている。例えばScorecardなどは、あのサイトを維持・運営するだけでも膨大な仕事で、情報の活用に関しては地域の運動に任せるという役割分担が明確になっているんじゃないか。
【会場質問】
Scorecardは株式会社が運営していると紹介されたが、どうやって収益を上げていくのか? 利益を上げないと会社として成り立たない。例えば、NGOから手数料をもらっているのか?
【村田】
ScorecardでGet Active Softwareという会社がウェブサイトの運営を請け負っている。そのための委託費をEnvironment Defense(ED)が出している。EDにしてみれば、ウェブだけにかかりきりになっているスタッフを切り離して委託料だけで払った方が結局コストも安く済み、ウェブの技術者たちも独立することでより専門性を高め、他のNGO等からも積極的に仕事を取り、どちらもハッピーだったと聞いている。 独立した会社も負担をかぶるだけでできないので、積極的に営業して、他のNGOから仕事をとっており、仕事の幅もかなり広いようだ。
2 「有害化学物質削減ネットワークホームメージ案」(槌田報告)をめぐって
◇アメリカに学ぶ3つの使い方
【会場質問】
お話を伺って、これはおそらく本邦初のPRTRのウエッブサイトになると、非常に意義深いことだ。私も環境社会学の分野でアメリカ、韓国、台湾の環境を見ておりまして、いくつかのこういうのをつくるNGO、特にPRTRではアメリカの場合、3つの使い方があるようだ。
まず、先ほど紹介したが、ケミカルな問題を社会的公正の問題としてフレームをつくりあげ、コミュニティの運動を推進して企業とも協定を結んでいって削減に結び付いていった。そういう観点で、地域情報の市区町村データベースについて例えば、私も国内で産業廃棄物の不法投棄の現場を歩くと、多くの場合、非常に高齢化の進んだところ、過疎化の進んだところが目立つ。日本の場合、人種、貧困には直接関係しないかもしれないが、過疎や高齢化問題とどの程度リンクするのかという問題はあると思う。
それから、もう一つは、先程村田さんからわかりやすくご説明していただいたように、企業のランキング、イギリスの例でワースト10みたいなもの。アメリカのPRTR制度のTRIは1987に施行され、88年に情報が出てきたとき、一番劇的だったのは、シリコンバレーでIBMの工場がオゾン層破壊物質?フロンガス--を全米一出していた。それがわかって、マスコミにキャンペーンをして、やめさせた。IBMもさるもので、「私ども全米一になって全廃します」というアクション起こした。 そういうドラマチックな例もあったが、もう一つの使い方というのは、企業の社会的責任を鼓舞していくような社会的責任投資の運動もある。グリーンコンシューマーと言っていいと思うが、同じ買うならPRTRでカラーのわかる環境にやさしい企業から買いましょう、あまり成績よくない企業から買わないようにしましょうというキャンペーン。それが、地域のソースになっているわけです。ランキングとかベンチマークみたいなことはなかなかすぐにはできないと思うが、少しやっていただく。 最後に3点め。村田さんのお話は全国レベルの紹介だったが、私はローカルなウェブをやっているところを知っている。感心したのは、PRTRのR、Release(排出)は比較的やられているが、Transfer(移動)の方はあまり扱われないところを、そこではここから出た廃棄物はどこへ行っているのか、マニュフェストを使ってトレースして、どこへ捨てられているか出している。 これが日本でできるかどうか難しいと思うが、日本の廃棄物についてやっていると、そこの地点から排出されているものと同時に、それがどこへ捨てられているかっていうようなことも非常に重要。おそらく長期的な課題になると思う。全国レベルのウェブサイトを起ち上げる必要があるということだが、その土地土地でいろいろ条件が違うと思うのでノウハウをいろいろ使って、ローカルな問題の解決も手助けしていただけるような活動をしていただければいいんじゃないか。
【槌田】
なにもかもやんなきゃということになるが、できるところから人を集めてみんなで力を合わせてやっていきたいと思っている。
【中地】
企業ランキングはデータ検索ができれば、上から順位というのが簡単にできそうに思うが、問題は取扱量で、元々どれくらいのものを使って、そのうちの何%を消化しているかというような評価の仕方というものもいろいろあると思う。一年目からすぐにそこまで進めるかとちょっと危惧している。 それと何人もの方から指摘されている話としては、1年目のデータを企業がどこまで正確に出してくれるか検証するというか、確認したうえで出さないと単純に1桁違うとか、記録を間違えて出してきたということも含めて公表される場合もありえる。一応、国、環境省や都道府県レベルで単位の間違いはチェックするとはいってはいるが、本当にそこまで全部チェックされて出てくるものなのかということも含めて、来年1月に出てきたデータを見て、こちらとしてどういうふうに2次加工するというか、市民向けにわかりやすいデータを情報提供できるかということを早急に考えていかなきゃいけないと思っているのでご協力のほどをよろしくお願いします。
◇子供でも使える情報を
【会場質問】
個人的にいとこの中学生に夏休みの課題に化学物質を調べるのを提案してみましたが、ぜひ子供が使えるようなものも案内していただければいいんじゃないか。中学生をターゲットにすると母親レベルが理解しやすい画面を見てアイキャッチできるように。そうすると見てくれる層が広がってくる。
【槌田】
ぜひ一緒にやりませんか(会場にも笑い)。
【村田】
ぜひこういう情報を日本の場合はほしいんだというご要望を、可能か不可能かは別にしてぜひお聞かせいただきたい。
◇注目される非点源の推計情報
【中地】
日本の情報で皆さん注目していただきたいのは非点源の情報。今日の話は全部事業所のある工場とか場合によっては大学とか病院とかも入ってきますけど、そういう事業所からの排出量の話をしたんですが、日本のPRTRの場合、非点源、例えば、農薬とか、いまシックハウスとかシックスクールで問題になっているホルムアルデヒド、トルエンというような塗料や接着剤から揮発するようなものも、国の方で既存の統計資料、例えば生産高とか出荷量から都道府県別に割り振って、トルエンの場合だったら10%が大気中に放出されると推計して、都道府県別にどれくらいの量が出ていくのかというようなことを報告する。そうすると、パイロット事業で言うとトルエンが一番排出量で多くて、半分が事業所で半分が非点源で、家庭とか建設現場とかいろんなところから少しずつ出てきているものだということが出てくる。そういうふうな非点源のデータにも一つ注目してもらって、地域の環境リスクと言った場合に、ダイオキシンでも1つの清掃工場の焼却炉というふうなところばっかりに目をやるんじゃなくて、それ以外の量は少ないけれども規模は小さいけれども、それを集めるとある程度の塊になるという報告もあるので、それに注目していただきたい。 その中で環境省が推計するデータの根拠も公表される。例えば、農薬はいままで成分しか報告されていなかったが、それ以外のいわゆる副次的に入ってくるようなもので、例えば展着剤で溶剤なんかで揮発しやすくするために入っているものがあるが、その中に環境ホルモン物質と言われているノニルフェノールを原料としたものがある、界面活性剤が物によっては10%ぐらい入っているようなものがあるということも非点源の推計方法のデータの報告書に出てくる。あるいは、接着剤なんかでもホルマリンが何%入っているとかトルエンとかキシレンが何%入っているかというようなことも種類別に--商品名は書いてないが--、国の方から企業にヒアリングして参考情報として報告する。 いままで製品のラベルに書いていなかった化学物質の含有量みたいなものを名前を伏せて公表しているようなことがあるが、逆に言うとこういう報告ができるんだったら、「ちゃんと製品表示しなさいよ」と成分を全部表示させるような消費者の側に役に立つ情報開示をしなさいというように十分使えると思う。非点源ということで、いままで推計されるようなところがなかったところまで公表されることになったので、そういうところにも注目していただきたい。
◇大きな問題がある製品の化学物質情報
【会場質問】
用途・製品別のデータで、事業所でMSDSで指定されている一般の物の組成表示、含有率を規定しているものはあるのか?
【中地】
現行の法律では、細かな具体的数字まで公表しなさいというようなものはない。例えば、お弁当なんか買っても最近では添加物を使っているなら使っているってことは表示しなさいとされているが、何%ぐらい入っているというようなことは全然書いてないし、この種の添加物ということで名前まで具体的に書かなくていいような形になっているので、そういうような表示の仕方をどういうようなものを使っているかも含めて求めていくようにしなきゃいけない。 そのへんは今年春先に問題になりましたが、香料メーカーが日本で使用許可されてないものを使っているといったことがまかり通っているのは要するに書かなくってもいいというところと関係している。
【村田】
化粧品だったら薬事法というように対象物ごとに別な法律があるので、統一して最低どういう表示をしなさいとういうことを求めないといけない。いまの現状だと個々の法律を変えないと解決しないということが大きな問題だ。
【藤原】
「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」という法律がある。指定物質はまだ17物質しかないが、家庭の中で日常的に使われている物質の中で少なくとも指定物質については成分表示をしないといけないが、これが一般になかなか知られてない。身近な化学物質をとらえている法律ではある。表示も含めて改正の声もある。 あるいは乳幼児製品とかに有害物質を使わないようにする、あるいは塩ビ製品の安定剤に鉛を使っているとか、化学物質というとどういう法律の網がかかっていてそれがちゃんと運用されているのか。そういう法律の方にも目を向けていかないといけない。 化学物質情報を開示させていくうえで既存の法律を数え上げれば100ぐらい化学物質関係で法律があるというくらい非常に錯綜している。今後は化学物質にアクセスするところから家庭の人たちにも関心をもってもらわなければいけない。僕たちも勉強もして情報を提供していかなければならない。
◇国のデータを加工するさいの法的ハードル
【会場質問】
今回、国がつくったPRTRのデータをこちらで独自に加工していこうという計画、たいへんすごいことだと思う。国のデータをウェブで公開していこうとするとき、こちらとのやりとりで法的なハードルなど難しかった点があったら教えてほしい。
【中地】
当初法律ができるときに公開の手数料いくらにするかいろいろあって、事業所1件20円で3万あって何十万という話があったんですが、結局、最終的にはCD−ROMで1枚1090円、その手数料を払えばもらえる。国の担当者によれば、皆さん一人一人重複して申請してもらわなくても「コピーは自由ですよ」というような話がされているので、1枚もらって後はそれを共有することは可能ということは確認している。
【関連リンク】
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この連続学習会は、平成14年度環境事業団地球環境基金の助成を受けています。
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