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１．ヨハネスブルグサミットに参加して
大沢 志佳子（日本生協連合会 環境事業推進室） 
２．ＰＲＴＲ制度に関する兵庫県の取り組み状況
【報告要旨】
兵庫県環境局環境情報センター
室長 菊井 順一さん
ＰＲＴＲ制度については、過去十数年間、ＰＣＢ、半導体工場、アスベスト、フロンなど化学物質の問題に関わってきて、やっとここまできたという感想を抱いている。濃度規制が主体という現行環境規制のなかで、事業者がなかなか出してくれなかった排出量のデータが、今度は入手可能となるなど、行政の立場でこれまで歯がゆく思っていたところが、ＰＲＴＲ法によって埋められるのではないかと思っている。これまでの環境規制法は濃度規制で、環境中にどれだけ出ているかという数値は出てこなかった。したがって、環境負荷についても分からなかった。
ＰＲＴＲ制度を支えるものはデータの公表。これまでの対策は、規制する行政と規制を受ける事業者の関係で留まっていた。ＰＲＴＲ制度は規制の関係ではなくて、データの公表を軸として、市民も含めた自主的な取り組みである。
兵庫県環境情報センターは兵庫県環境局のホームページを運用管理している。現在、環境データは記者発表を行い、その際必ずホームページに全て掲載、環境白書などにも搭載している。しかし、それらはあくまで濃度デ－タが主体で、排出量ではない。これは各都道府県同じ状況である。
兵庫県においての届出状況については、神戸市の約 250 を加えて兵庫県全体では 1,500 を超える事業所から届け出があった。物質延べ数では、 1 事業所平均 3 物質として約 4,500 ～ 5,000 くらいの届け出があり、それを国へ送っている。国では今、 3 万件くらいのデータが集まっているということで、兵庫県は全体の約 5 ％というところである。
ＰＲＴＲ制度によってこれらのデ－タは、これまでの環境調査のように 5 年に 1 回などではなく、集計・公表は毎年行われ、断面ではなくトレンド（すう勢）を把握することができる。県としては全データの報告書とその概要版を作ることにしている。また、分かりやすい形に加工してホームページに掲載する予定である。 15 年度は第 1 回集計・公表が行われたことを受けての対策を考えていかなければならないと考えている。現在、事業者向け、市民向けの対策、リスク評価など事業計画を練っているところである。
３．ＰＲＴＲ制度に関する大阪府の取り組み状況
山﨑 晶子（大阪府環境農林部化学物質対策課総括主査）
４．市民のためにＰＲＴＲ制度の有効活用を
中地 重晴（有害化学物質削減ネットワーク 代表）
５．海外のＮＧＯの取り組み状況について
Ｔウオッチ副代表 村田 幸雄
ＰＲＴＲ制度の原型といえるものは、1986年から始まったアメリカのＴＲＩという制度。この時代は、インターネットも発達していなくて、情報提供は報告書という形でされ、それをＮＧＯが広く一般の人たちに伝えるのは困難だった。やがて、パソコン通信が少しずつ広まってきて、”知る権利ネットワーク”というＮＧＯが政府から入手した電子情報をパソコン通信で全国のＮＧＯに伝えたのがＰＲＴＲ制度に関するＮＧＯ活動の始まり。
90年代に入ってインターネットが発達してきて、ウェブサイトに載せて広く市民にアクセスしてもらうことを考えたのはイギリスのＮＧＯ”地球の友・英国”。一般市民が一番関心を持つのは住んでいる地域の情報だと考えて、郵便番号で周辺の排出情報が分かるようにした。
これは、国内外にひじょうに強いインパクトを与えた。それまではイギリスではほとんどの市民はＴＲＩという名前のＰＲＴＲ制度に関心がなかったのが、急速に認知度が高まった。その結果、当時の欠陥が多かったイギリスのＰＲＴＲ制度が改善されていった。それを見て、各国政府のＰＲＴＲ情報提供もウェブサイトに重点が置かれるようになった。
1998年、アメリカのＮＧＯ”Environmental Defense Fund”がひじょうに使いやすいホームページ”Score Card”を作った。これは、ＰＲＴＲ情報に限定していなくて、家畜の屎尿による汚染、大気汚染などいくつかのテーマごとの幅広いデータベースになっている。
ＰＲＴＲ情報は膨大な情報量なので、多様な要求に応じるには紙媒体では無理。私たちＴウオッチも、ウェブサイトでの情報提供を活動の中心に置いている。海外のウェブサイトを参考にしながら、日本の市民が使い易いものにしたいと考えている。
６． 質疑応答・討論
［自治体の上乗せ対策、塩素系物質の報告・公表］
Ｑ１．
兵庫県、大阪府でＰＲＴＲ制度に関して国の施策に上乗せしていることがあればうかがいたい。
Ａ１．（菊井）
兵庫県は特にやっていない。ただ、色々と問題点が出てきているので、考えていかないといけない所はあると思う。例えば、21人以上の事業所、取扱量が再来年からは1トン以上だが、それまでは5トン以上の事業所が対象となっている。正確な実態把握のためには裾を広げることも考えられる。
（山崎）
大阪府でも特にない。化学物質管理に関しては化学物質適正管理指針があ り、123の物質について大気への排出を抑制している。
Ｑ２．
有害な化学物質の中でも塩素系の物質は、特に問題であると考えている。たとえば、下水処理場でも塩素殺菌によりトリハロメタンのような有害物質を発生させているが、ＰＲＴＲではそうしたものも登録公表されるのか？
Ａ２．（菊井）
下水道からいかに排出があったのかということに関しては、各下水道事業所から塩素系の30物質についての届け出を受けている。354の対象物質中、30物質については全てデータが出て来ているので明らかになる。届出書には、○○川への排出という記入欄もあるので、○○川にどういう物質がどれくらい排出されているかということも明らかになる。河川への環境ホルモンの疑いのある物質の排出をいかに減らしていくかという対策も可能になる。ＰＲＴＲ制度では、届け出は始まりであって、公表されたデータを共有することによって削減のための対策をとることが次に求められる。
（Ｔウオッチ/藤原）
対象物質には塩素系の30物質が含まれているが、それで十分ではない。もっと追加させていかなければいけないと思う。8年くらい前に当時の通産省が、どういう工場が塩素を使ってどういう製品を作っているかを詳細に調査したことがある。それは、塩ビが世界的に大きな問題になってきたことがきっかけだと思う。しかし、その元データは公表されていない。それが公表されれば、届け出結果とつきあわせて漏れている所はないか調べることができると思う。
［データの精度を上げるために］
Ｑ３．
ＰＲＴＲ法では、排出・移動量の報告だけで、購入量・取扱量については報告されない。したがって、報告されたデータが果たして正しいかどうかの検証作業が今後必要になってくる。その点、行政の考えは？
Ａ３．（菊井）
報告書を見て、例えば大気への排出があるのではないかなどの間接的な指導はしているが、報告データは正しいのか、あるいは取扱量が対象事業所基準の5トン未満かどうかについても確かめる手だてがない。
（山崎）
届け出をしなければどうなるのかという問い合わせを受けることがある。その時は、「近くの住民があなたの工場のデータを調べた時に、無いと分かったらあなたが困るでしょう」と答えている。だから、住民が有害化学物質の排出量に関心を持っていくことがデータの精度を良くしていくことにつながる。今のところ、行政としては手段がないので、ご協力いただきたい。
Ｑ４．
従業員40人ほどの化学会社の技術部にいて、ＰＲＴＲの報告に関わった。昨年半年間かけて、毎月1回、3人で一所懸命に計算。色々な算出方法から自分のところに合ったものを探すのが大変だった。将来20人以下の事業所でもやろうとしたら、事業所の負担が大きい。事業所の負担ばかり大きくて、データはいい加減ということになる恐れがある。実効を上げるためには、綿密な検討が必要だと思う。
Ａ４．（菊井）
算定マニュアルはあるが、今の発言のようなことある。事業者に対していかに細かく対応していくかがポイントになる。いったんデータがいい加減だということになると、ＰＲＴＲの本来の意味が損なわれてしまう。来年度、問題点を真剣に受け止めてもう一度事業者向け説明会を開きたい。
17年度からは、取扱量1トン以上の所が対象となるので、今の1.5倍くらいになると予想している。全国では5万を超えるだろう。小規模事業所に対するきめ細かい指導、やりやすい算出法、信頼が置けるデータをいかにして得るかなど課題は山積みである。
Ｑ５．
不確実性が入ってくるのはやむを得ないが、対策が前進していることを評価できることが必要。そのためには、事業所の努力が分かるような推計手法をとるといいのではないか。データの信頼性の確保のためには、別の統計から生産量・排出量などを照らし合わせてみるなどしてチェックはできると思う。
Ａ５．（菊井）
今年と翌年を比較して評価するというようなことが必要になる。トレンドを視野に入れて公表することを今、構想に入れて検討している。同規模事業所の相互チェックによる算定方法のチェックなどもしていきたい。報告書を見る目がだんだんと肥えてくるはずなので、信頼度を上げていくことは可能だと考えている。
［目安箱を設けてはどうか］
Ｑ６．
環境に関心の高い一般市民が情報提供できる”目安箱”のようなものを設けてはどうか。あそこの工場、こっそり燃やしていたとか、排水溝から廃液がいつも出ているとか。
Ａ６．（山崎）
大気や水質に関わる別の部署では工場への立ち入り権限もあるので、ＰＲＴＲ法への宣伝も兼ねて指導している。”目安箱”に関しては、何か問題があった時には相談の窓口は以前から用意している。
［Ｔウオッチのホームページの内容や体制は？］
Ｑ７．
Ｔウオッチで公開するホームページは、どのような体制で運営していくのか？国や地方自治体もＰＲＴＲの情報をホームページで公開していくと思うが、同じような内容になるのか？
Ａ７．（Ｔウオッチ/槌田）
どれだけの人が見に来てくれるかでこちら側の体制は変わってくる。国、地方自治体、ＮＧＯそれぞれがホームページでデータを出すので、すみ分けを考えている。国は都道府県別データまで、地方自治体は自分の所だけのデータ。ＮＧＯでは、エコケミストリー研究会が主に市町村別の地図上に濃度別に色付けしたり、毒性情報を提供する予定。
したがって、まずエコケミストリー研究会のウェブサイトを見て、自分の住む地域の情報を得る。そして、問題意識が芽生えたら、次にＴウオッチのウェブサイトに来て、それを解決するための情報を得るというようなことを考えている。また、身近な製品の中にどんな有害物質が含まれているかという情報提供も。
エコケミストリー研究会の毒性情報を加味した地図情報とＴウオッチの市民の活動支援情報とがうまくからみ合えればいいと考えている。
（Ｔウオッチ/村田）
国から提供される個別事業所の情報は請求しなくては見られない。Ｔウオッチでは、ウェブサイト上で見られるようにしたい。ランキングについても検討したい。
Ｑ８．
Ｔウオッチのホームページに期待しているが、お金がかかることが心配されるので、利用料を取ってはどうか。
また、国、自治体、ＮＧＯで役割分担するという話があったが、排出量の推計という段階では物質の移動を相手にしているわけで、やり方にそう違いは出ないだろう。しかし、リスク評価の段階になると、色々なやり方が出てきて、ＮＧＯの中でも団体ごとに違ってくると思う。
Ａ８．（村田）
ホームページは基本的には誰もが無料で見られるものにしたいと個人的には考えている。有料、あるいは会員のみアクセスできるページなどについては、Ｔウオッチ内部で未だ検討中。議論をする部分は会員のみなど、分けることも考えている。
ＰＲＴＲで出てくるデータは結論ではなくて事実を見るためのはじめの一歩。不均質なモザイクのかかった写真のようなもの。おおざっぱな絵の中から何が問題かを見つけるための一手段であって、ＰＲＴＲデータだけでは言える部分は少ない。それを土台に何をするかが大事だと思う。
【関連リンク】
- ・ヨハネスブルグサミット
- 日本生協連
- 環境ｇｏｏ
- 提言フォーラム
- ・兵庫県のPRTR情報
- ・大阪府のPRTR情報
このセミナーは、平成14年度環境事業団地球環境基金の助成を受けています。
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