2002年10月19日 ヨハネスブルグ・サミット参加者に聞く
 
 


質疑討論するパネラー(左から)水口哲さん・大沢志佳子さん・森下哲さん

1.水口 哲(ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 常任幹事)

当日資料A :ヨハネスブルグサミットの概容
当日資料B :「NGO参画」条項から見たサミットの成果と今後

 ヨハネスブルグサミットについて、
1・いつ、どこで、誰が、
2・何をやったか  
をお話ししようと思う。

1 日程・参加者

  まず、8月24日25日には非公式協議があり、8月26日〜9月4日に公式協議があった。
参加者は、政府代表、国際機関代表、NGO、企業、市民社会、学会、科学者
  191カ国から21340人の参加がありました。カナダのNGOが、参加者のデータを集計して公表している。

2 サントン地区での会議状況

 サントンという地区で、さまざまな交渉が行なわれた。

1) 本会議・サイドイベント
本会議:主要なグループ(地域ごと)の参加するパネルディスカッションつき
  サイドイベント:交渉テーマのシンポジウム

2) 分科会
グループ別分科会:G77、EU、JUSCANZ など、
地域ごとのグループテーマ別分科会:エネルギー、化学物質、ガバナンス(社会や組織の運営方法)など

3) 評定
  ウイーン評定:グループ別に、代表者が発言する会議の場
   →ウイーン会議で、初めて設けられたスタイルなので、この名がついた。
途中から、NGOの参加が可能になった。

 ヨハネスブルグ評定(閣僚級協議会)
   →各国から各2名が参加する決定の場。

4)IUCN関連イベント
   国際会議場付近でIUCNが行なった「関連イベント」は、関連交渉テーマごとにシンポジウムを開いた。化学物質や廃棄物のパネルもあった。

※ 1)〜4)でのペーパー、討議内容の要約などはwww.iisd.ca で入手できる。
   www.iisd.ca には、発言者にメールを出せるページもある。

5)NGOはテーマ別や主要テーブルごとのNGO分科会を同時併設
   ヨハネスの特徴としては、オランダのヤン・ブロンク氏(NGO出身・オランダの前環境相・2000年11月・ハーグ/2001年7月・ボンで開催された「COP6」(気候変動枠組み条約第6回締約国会議)では議長を務めた)が呼びかけて主宰して、本会議に先立って「NGO公開ディスカッション」の場を設けたこと。温暖化、化学物質、などなど、テーマ別に議論した場で、各国首相が傍聴した。
   それと、テーマ別に、誰でも参加できる「NGOサイドテーブル」が設けられ、政府間で話し合われている議論を、NGOに速報する場として活用された。

3 その他の会場

 同時に、並行して、さまざまな会が開催された。

1) ナズレック:NGOがPR/広報したり、交流した場。 交流が参加目的のNGOが、たくさん集まった。

2) ウブンツー:政府展示の場

3) ウオータードーム:水関連のイベント会場

4) 日本政府代表は、本会場より遠い宿泊村にマスコミと滞在し、そこにブリーフィングの場も設けた。

4 3種類の文書

1) 政治宣言:持続可能な開発実現に向けた首脳の決意を示す

2) 実施計画:アジェンダ21実施を促進する取り組みについての合意文書
        参加191カ国すべてが同意

3) 約束文書:持続可能な開発実現のため、各主体の自主提案や決意文書
        →実施する国のみの参加

5 実施計画の概要(水口さんの目次仮訳あり)

第3章−第4章−第2章というディレクトリになっている。
   第3章がポイント。「非持続型」社会からの転換をうたう。
   からみで第4章、途上国の豊富な天然資源の保全の必要性をうたう。
   第4章関連で、第2章、途上国の貧困撲滅問題を取り上げる。

第5章からが「どうやって持続的開発を実現するか」の論述
   第5章:グローバル化の問題
   第6章:保健衛生の問題
   第7章:小規模島嶼の問題
   第8章:アフリカ・アジアなどなど

実施計画で注目される記述(項目)

第3章(1):先進国主導で「持続可能な生産・消費形態促進へ10年事業計画」を促進。
  当初草案は「〜10年事業計画」を策定で、討議の結果「促進」に文言は後退したが、OECDは「〜10年事業計画」を策定中。NGOも「JCSPAC」(持続可能な〜のための国際連合)をつくっている。

第3章(2):具体的に
  欧米の農産物の輸出補助金の問題と、ダム開発や農薬の補助金の問題を取り上げている。

第4章:水と漁業
  7割の種の魚が絶滅に向かっているので、保護の必要を記述

第10章(2):国民参加をうたう
  第2章にそって参加国は行動し、国民参加で2005年までに、持続可能な開発戦略を策定する。

「NGO参画」条項から見たサミットの成果と今後:水口さんの「資料B」

  リオ原則の10が、より具体的になった。

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2.森下 哲(環境省環境保健部環境安全課)

スライド資料

 水口さんのお話と重複する部分は、できるだけ割愛する。
  私は、首脳級会議(9月2日〜4日)には不参加で、化学物質やリオ原則のサブグループに参加した。実施計画の策定は、調整が難航して、首脳会議以前に終了予定だったが、スケジュールがずれ込みんだため、最終場面には立ちあえなかった。

タイプ1文書の交渉の結果として合意したものに、「ヨハネスブルグサミット実施計画」(アジェンダ21の実施を促進するための取組についての合意文書)と、「政治宣言」(各国首脳の決意を示す文書)がある。

タイプ2文書「約束文書」が新しい取り組みだった。各国、各界関係主体による具体的なイニシアティブの提案・表明が記載された。

タイプ1・2の文書について、交渉と合意がなされただけでなく、サイドイベントも開催された。

実施計画は

第1章:序論
第2章:貧困撲滅
第3章:持続可能でない消費・生産パターンの変更
第4章:経済・社会発展の基礎となる天然資源の保全と管理
第5章:グローバル化する世界における持続可能な発展
第6章:健康と持続可能な発展
第7章:小島嶼開発途上国の持続可能な発展
第8章:アフリカ・アジアのための持続可能な発展
第9章:実施の手段
第10章:持続可能な発展のための制度的枠組み

という構成になっている。

 政治宣言としては「持続可能な発展に関するヨハネスブルグ宣言」が出された。
  なお、「サステナブル・ディベロップメント」は「持続可能な発展」と訳すのがいいと思う。「ディベロップメント」を「開発」と訳す場合が多いのだが、違和感を感じている。「ディベロップメント」には、「エンバイオメント・ディベロップメント」「ソーシャル・ディベロップメント」「エコノミカル・ディベロップメント」があるのだが、環境・社会・経済、どの語につけても、概念としてしっくりくるのは「開発」より「発展」の方だと思う。

 実施計画のポイントの一つに、化学物質関連があると思う。分科会でも、ウイーン評定でも、長時間、活発な議論がなされた。アジェンダ21を再確認したし、リオの第15原則(予防原則)も確認した。「2020年まで」と目標期限も採用された。なお、2020年までに何をすれば目標が達成されたといえるか、これから検討するという側面があるが、期限を区切ったのは新しい成果だ。

 「2020年まで」と期限は、EU、スイス、ノルウエーの主張が通った形だ。議論の当初、この提案は途上国の反発を受けた。なお、欧州では、近年「2020年まで」という目標が採用されている。たとえば、北東大西洋の海洋の保護を目的にしたオスパー条約がそうだ。2020年までに、海洋の生息に悪影響のある人為の化学物質の環境への進入をゼロにしようという目標を掲げている。
  また、北欧諸国は、その持続可能戦略に「2020年まで」という目標をうたっているし、北欧のNGOにも「2020年まで」という目標をうたっているところがある。
  この「2020年まで」という目標は、ワンジェネレーションという考え方からきていて、要は「一世代の間に、何とかする」という決意表明だ。

 実施計画には、化学物質関連で「リオ宣言第15原則に留意して」という文言が盛られている。EUは当初「もっと明確に“予防原則”を(文言に)」という主張をしたが、最終的には「リオ宣言第15原則(予防的アプローチ)に留意して」という文言に落ち着いた。  EUの主張する“予防原則”は、まだ詳細が不明で、国際的認知が得られていない。そこに他の国々は疑問を持っている。とりわけ“予防原則”が、保護貿易に悪用されることを警戒している。
  また「人の健康および環境にもたらす悪影響」と訳した部分は、原文は「Human Health & Envioment」となっている。国際条約では、通常、人健康と環境の保護がセットで言及されている。

 個別の施策では、PIC条約(国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約)(注:PIC、とはプライアー・インフォームド・コンセントの略で事前通報同意を意味する。)の発効を2003年末までに、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)は2004年末までに発効を目指すことになった。

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3.大沢志佳子(日本生活協同組合連合会 組織推進本部 環境事業推進室)

スライド資料

1 生協とは

 まずは、生協がなぜ、ヨハネスブルグサミットに参加したのかをお話したい。 生協は、「生活の協働」を進めていく組織で、経済的な役割を事業で果たし、社会的な役割を消費者団体的な側面(活動)で行なっている。 生協は一般には、事業のイメージが強いかもしれないが、活動も大切にしている。 環境への取り組みは、事業と、組合員の自主的な活動の双方で行なっている。
  また、日本生協連は、よく誤解されるのだが、生協連は全国の生協の連合会。それぞれの生協と連合会は、それぞれに独立した法人。本店−支店、というような関係ではない。

2 生協連の環境事業推進室

 生協連の環境事業推進室は、91年に設けられた。リオのサミットを意識してスタートした組織。この10年間、世界の環境に関する情報を追い、収集してきた。

3 ヨハネスブルグサミットに参加した経緯

 参加の目的として、情報収集と、生協の取り組みの紹介があった。
  ヨハネスブルグサミットには、生協から、全12名の参加があった。CASAのメンバーに同行。CASAの一行は、全30名。リオのサミットには、生協全体で50名が参加したので、人数は半分以下に減った。

4−1 現地で・サントン

 サントンは本会議場など。開会式(8/26)にSCCまでは行ったものの、式場には入れず、NGOルームのモニターから見学した。モニターは小さくて、よく見えない。

4−2 現地で・ナズレック

 CASAと共同のブースで、バイオディーゼル車の取り組みの紹介など、生協の取り組みを紹介した。  また、生協の活動の伝統には平和運動への参加があるので、原爆についての展示パネルも設置した。原爆については、国際的には知らない人も多く、海外のNGOの人も知らなかったりするので、反響が大きかった。
  南アフリカの人は、英語に加えて、2、3の民族語を、普通に話す。ナズレックでは、ボランティアの人に折り紙の折鶴を教えたりする交流も持てた。ナズレック会場のNGO展示は、初日と二日目には、まだまばらで、ボランティアスタッフの人が時間を持て余していた。折鶴の反響は大きく、たくさんのボランティアスタッフがあつまった。
  ナズレック会場は、体育館のような場所で、全会期を通じて大混雑するようなことはなかった。

4−3 現地で・ウブントゥ

 バスの乗り換え場と、公式展示場があるのがウブントゥ。万博会場のような雰囲気。
  日本パピリオンには、展示だけでなく、セミナー会場もあった。

5 感想、今、考えていることなど

 サミット参加によって、日本の生協役職員と、南アフリカの消費者団体の方が交流を持てたりした。人との出会いの影響は大きく、少しだけ南アフリカという国や、アフリカという国が身近に感じられるようになった気がする。

 南アに関しては、アパルトヘイト後も、白人と黒人の格差が依然として残っている。
  平均年収では、20倍の格差(白人:30万R≒320万円 黒人:15000R≒16万円)。
  失業率は、国の平均は30%だが、黒人は40%。ソウェトでは45%。
  「黒人はやろうと思ったことが「できる」と思っていない。自信を持つところから始めなければならない」という言葉が印象深かった。

 しかし、男女の不平等の問題や、消費トラブルの問題などは、日本も南アフリカも共通していると思った。「くらし」という視点で見ると、困っていることなどは、じつはあまり代わりが無い。
  たとえば、南アフリカの消費者団体が、市民運動として力を入れている活動に「コールバック運動」がある。不当に高値で販売された商品を、返品しようという取り組み。この取り組みを知って、どの国にも「無知」につけこもうとする人がいるものだと思った。南アの消費者団体の方は「南アだけでなく、日本の消費者のためにも役立つ活動です」と胸を張っていた。こういった国際交流の経験の積み重ねが、今後、大きな力を得てくるのではないか。

 それから「持続可能な‥‥」とは、環境にも社会にも、経済にも問われていることだと思う。公平性やパートナーシップに関わってくる問題。
  しかし「持続可能な」は、社会の実感として、まだまだ痛切ではないきらいがある。どう構築していくかは、今後の課題なのではないか。

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4.村田幸雄(WWFジャパン)

資料提供のみ。 「 ヨハネスブルグサミット実施計画書における化学物質問題関連記述抜粋 」

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5.質疑応答

問:「一貫し、統合された情報」とは?

森下哲さん:
  英語では「コヒーラント&インテグレイテッド」です。PRTRは、提供する情報の基準や、対象物質が各国でバラバラなので、G8などでは、共通する部分を高めようという宣言が出ています。
  ちなみに、グローバル・ハーモニゼーション・システム(GHS)にも触れておきたいと思います。今回の実施文書でも2008年末までの完全な実施が目標とされました。GHSについては、資料も用意しましたが、有害性や毒性について、地球的規模で「一貫し、統合された情報」として、理解しやすい容易な絵表示などでラベリングしようというものです。

問:NGOがヨハネスブルグサミットに参加した意義は?

水口哲さん:
  ウイーンセッティング(評定)では、NGOの傍聴によって政府の発言が変わったと言うことがある。保健衛生の分野では、日本が初めて「2015年までに達成することを目標とする」と明言したりした。
  また、情報参加や市民アクセスの問題も、アクセスイニシアティブ(国際NGO)の提言があって、はじめて政策課題が明言されたと思う。

問:リオサミットにくらべて「盛り上がらなかった」と言われているが?

水口哲さん:
  たしかに、リオサミットの時のような、華々しい条約が締結されたわけではない。議題の多くは、実務面や、技術的な課題に重点が置かれていた。一般受けしない話題が話されていた。
  しかし、ヨハネスブルグサミットで設定された50の目標のうち、およそ三分の一に達成目標が定められたのだから、実は多いのではないか。EUやアフリカ諸国は、期限付きの目標のことを「ターゲット」と称しているが、その「ターゲット」が多く定められたのが、ヨハネスブルグサミットの特徴だろう。
  それと、「やはり、外交の場なんだなあ」という感想を持った。少しでも多くの、国、人々、企業が賛成したり合意することが外交では大事なことなんだと感じた。だから、ある項目について明確には断言しないこともある。明確に断言することより、あいまいないい方をしても、一人でもより多くが合意に参加することが大事な場なのでは?

問:なぜ、実施文書の作成作業が遅れたのか?

森下哲さん:
  EUと他の先進国、EUと発展途上国の間で、衛生、水、エネルギー、資金、貿易の問題など、なかなか合意が得られない項目がたくさんあった。
  私は化学物質問題の分科会に缶詰で、ヨハネスブルグサミットの全体をみていたわけではないが、あえて印象を述べると、「約束・行動・実行」という面で、リオの合意を強固に再確認したヨハネスブルグサミットの意義は大きいと思う。
  日本の政府代表団は、NGOのメンバーを入れるなどの工夫もした。また、あれだけの国際会議を南アフリカでつつがなく終えたと言うことは、現地にとっての成果も大きかったのではないか。  

問:GHSについて質問する。化学物質に関する政策が、国際的に「ハーモナイズ」されると、日本の農薬規制などのように後退する懸念はないのか?

森下哲さん:
  まず考え方のことをいうと、「ハーモナイズ」はレベルを一定にするということで、スタンダーゼーション((政策の)一本化)とはちがった概念。
  急性毒性の問題で言うと、有害性の程度を示す5つのランクを、国際的に基準をそろえましょう、というのがハーモナイゼーションで、今回はそれに合意した。では、急性毒性の5段階レベルで、どのランクに該当する物質を規制するのかは、各国の判断にまかされているので、スタンダーゼーション(一本化)ではない。しかし、急性毒性の1?5の5つのランクを区切る基準は、きちんと数値化して、国際的に基準をそろえようと言うこと。
  また、GHSや農薬の問題に関連して、日本での生態系への影響に関する化学物質の対策の現状をいうと、OECDのレビューに沿って、具体的な政策を、中央環境審議会に諮問中。

問:リオサミットと比べて、NGOの成果はどうだったのか?

水口哲さん:
  リオサミットについては、毛利聡子・著『NGOと地球環境ガバナンス』築地書館(1999年)が詳しいが、日本のNGOは、ナズレックのような部分、交流やアピールの場に参加できただけで、政策提言をできなかった恨みがあるのではないかと思う。
  しかし、世界のNGOは、リオサミットから政策提言に参加していた。たとえば、EDIN(持続可能な社会のためのネットワーク)は、先住民の団体、農民の団体、消費者も加わって、リオサミットから政策提言に参加していた。そして、EDINは、リオ以後も地道に持続的に活動してきて、その提言成果はヨハネス宣言の消費の部分のレポートに反映されている。
  またCSDの活動も諸外国では活発で、ヨハネスサミットでは、EDINとCSDは本会議にもオブザーバー参加している。日本にもJCSDがあるが、活動は諸外国と比べると活発ではないように見受けられる。  日本のNGOについて疑問なのは、サミットの前後しか活動しないと言うこと。リオからヨハネスまで10年間、持続して海外のNGOと連携してこなかった。そのことのマイナスは大きい。
  ただし今後は、日本のNGOもEDINとつながりができて、変わってくるのではないかと期待している。
  サミットで、急に何かが変わったり、何かが始まったりするわけではない。むしろ日常の政府へのアプローチが、NGOや企業には大切なことなのではないか?

森下哲さん:
  政府と、NGOや企業との関わりに関して言うと、政府の情報公開が重要と感じている。化学物質関連で、情報へのアクセスにつき、改善すべき点などがあれば教えて欲しい。
  リスクコミュニケーションにとって大事なのは、わかりやすい情報提供ではないかと考えている。化学物質のリスクを、わかりやすく、中立的に話の出来る人を育成してゆきたい。市民を含めた「多様な主体の参画」については、POPs条約への対応でも試みている。

大沢志佳子さん:
  JCSDは、政府関係者や自治体、企業のほかにNGOで構成されていて、日生協も入っている。定例協議は行っているが、コーディネーターが不在で、政策提言に至っていないような観がある。日本では、パートナーシップやネットワークの場が、得てして協議だけの場になってしまいがちだと思う。そこが大きく変わらないとダメなのではないかという気もする。

問:子どもの健康に関する問題に関しては、どのように取り決められたのか?

森下哲さん:
  担当外だが、鉛については、子供への影響を考慮して環境基準を設定している。ヨハネス不参加国だが、アメリカでは子供の健康を大きな課題として扱っている。

問:「実施文書」は、どうつくられたのか?

森下哲さん:
  会議の場では、まず、あらかじめ出された各国の提案があって、それをまとめた議長提案が出てくる。議長提案に対して、各国が是々非々の論議をして、その合意成果が分科会提言になる。

問:市民として、日本の政策へのアクセス法を知りたい。

森下哲さん:
  ひろく、省庁の、さまざまなパブリックコメントの募集に、意見を寄せて欲しい。
  ヨハネスサミットに関して言うと、日本政府の意見を出す前に、外務省が窓口となってパブリックコメントを募集した。

問:予防原則についての、日本政府の対応を知りたい。

森下哲さん:
  「予防原則」については、言葉が混乱しているという問題がある。しかし、日本政府は、EUの言っている「予防原則」には反対の立場。その運用についての詳細が不明だし、それゆえに国際的な認知もまだまだ低い。EUはコミュニケなどを出してはいるが、「予防原則」についてまだ十分定義されていない。
  なお、我が国では、政策決定の意志判断において、予防的方策又は予防的なアプローチをとることは、環境政策の基本としている。

問:ストックホルムサミットが問題提起、リオサミットが指針を示し、ヨハネスが政策を具体化した、という位置づけはできるのかもしれない。しかし、議論が専門化/細分化した分、危機意識は薄れてはいないのだろうか? 人口増大の問題など、危機は深刻化してきているのに、グランドデザインをどうするのかの問題が抜け落ちてしまっているのではないか?

大沢志佳子さん:
  確かに、場そのものには、危機感は支配的ではなかったのかもしれない。ウブントゥやナズレック会場は、特にそうだったかもしれない。
  しかし、ヨハネスに行くという時点で、政府代表団員もNGOメンバーも、危機感が前提の行動だったと思う。たしかに、議論は細分化して具体的だが、問題意識や行動の動機には、大前提としての危機感が、共有されていたと思う。
  はじめから大きな着地点を考えるのではなくて、小さな事例や小さな成功の積み重ねが重要なのでは無いかと思う。今後も、次世代への責任を持って、行動してゆきたい

森下哲さん:
  私が参加したのは化学物質の分科会だけだが、ヨハネスのサミットでは貧困の問題も大きなテーマだった。しかし、途上国は我々にとって、依然として数値でしか見えていない恨みもある。環境の問題は、かなり拡がってきていて、社会や経済の仕組みの改善が無くては、解決できないと言うところまで来ていると思う。
  問題は拡がってきているのだが、対処では、約束と実行が大事だ。そういう点で、危機感は着実に深化してきていると思う。
  また、ヨハネスサミットの合意文書や実施文書では、市民を含めた多様な主体の参画が歌われたが、コミュニケーションの問題を含めて、持続可能な社会を実現するために、多様な主体の参画の必要性を痛感している。ヨハネスサミットに参加して、協働が大事だとあらためて思った。

水口哲さん:
  外交交渉には冷徹な面があって、ヨハネスサミットは「正義の奪い合い」ビジネスのような側面もあった。よりたくさんの「正義」のカードを持っていれば、より多くの「正義」を獲得できるのではないか。補助金、資源、お金、などなど、「正義」にはさまざまなカードがあって、その奪い合いをやっていたような面があった。
  たとえば、再生可能エネルギーの議論では、諸国や企業は理想を語り合いつつも、常に何かを奪い合っていた。そのようにさまざまな「正義の奪い合い」が行われていた。
  ブントラントサミットでは、
    1 将来世代の資源を奪わない
    2 定まったゴールはなく、人々が意識や能力を高めるプロセスに、持続可能な発展の実現の途が開ける、
ことを確認した。
  しかし、ヨハネスサミットでは、金融に関する議論がなかった。非営利経済やマイクロクレジット、発展途上国の債務問題の議論がなかった。そこが大変に残念で、大きな課題を残したと思う。

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この連続学習会は、平成14年度環境事業団地球環境基金の助成を受けています。