2002年9月13日 PRTR制度の最新動向(3)
企業(日産自動車)に聞く
 
 

1.日産自動車の「環境」への取り組み〜「化学物質管理」を中心として〜

原洋一さん 日産自動車(株)環境・安全技術部 技術渉外グループ次長(地球環境)(兼)環境マネ−ジメントグループ次長

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2. 質疑応答

◇グリーン調達について

Q.日産のグリーン調達(資料3―1 グリーン調達)について(1)部品・資材仕入先への3つの要請事項はどのくらいの重さをもっているのか、(2)2次、3次のサプライヤーの先はどうなっているのか、そして(3)チェック体制は?

グリーン調達

A.(1)については、 ISO14001の精神・基本理念に基づき実施しているもので、これを破ったら取引をやめるというようなものではない(ISO14001は全サプライヤーが取得することで現在展開中)。(2)について。2次、3次サプライヤーに対して日産は直接関与していないが、1次サプライヤーが2次サプライヤーを、2次が3次を把握する仕組みになっている。(3)は、新車毎に提出されるレポートのデータを管理するだけでなく、サプライヤーの内部に管理責任者を置いて自主管理するようにしている。

Q.PRTRデータを集約する上で日産の場合、成分情報データシート(資料3−3 新規原材料管理制度のフロー図)が、情報の入ってくるところの要となると思うが、そこをもう少し説明していただきたい。

新規原材料管理制度 フロー図

A.新規原材料管理制度は、主に工場資材として納入される材料について、環境への影響と作業者への安全性を把握するものであり、MSDS要求事項に独自基準を追加した成分情報データシートを作成し情報を収集している。これと共に、(前述の)グリーン調達を通じて集めた部品のデータを合わせ、クルマ1台分の材料データとして電子データで管理している。

Q.このフロー図に安全健康管理部署というものも設置されているが、この安全健康管理のデータもその中に入っているのか?

A.作業安全性は、人間の健康保全を管理の基本に考えている。現在使用が認められている物質も、今後の研究で安全性が疑わしい情報が出てくる可能性はある。そういったことを安全健康管理面という専門領域で継続的にフォローしていくのが安全健康管理部署であり、仕組みとしてきちんと組み込んで取り組んでいる。

Q.そのフロー図は情報のフローを表しているのかなと思うが、(1)新規原材料はどこが管理しているのか、(2)新規以外の原材料はどうしているのか、教えてください。

A.手配とか発注という意味の物の管理では、フロー図の中の材料発注管理部署というところが中心になる。化学物質の使用とか採用の判断という意味の管理は、環境への影響を「環境管理部署」、作業安全性を「安全健康管理部署」が担い登録制を取っている。物の流れは左側のフローだけで済むが、右側の安全健康管理部署の情報も材料発注管理部署にフィードバックされるようになっている。新規以外というのは現在使用している原材料のことで、各部署が採用時の審査情報の写しを保管し、情報を共有化することで管理している。材料を変える場合は、登録を抹消する。

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◇化学物質使用制限規格について

Q.資料 10ページに化学物質の使用制限規格(内規)とあるが、どういう基準で使用制限しているのか説明していただきたい。

化学物質の使用制限規格

A.使用禁止ならびに使用制限物質( 208物質)と、使用制限はしないが今後注意が必要な物質(58物質)があるが、いずれも法規を先行させている。クルマは世界に販売しているので、弊社としては日米欧の法規をカバーして開発・生産している。細かいことを言うと、アメリカは連邦法だけでは足りない。州ごとに法規が異なり、連邦法より厳しくなっている場合があるので、毎日官庁の刊行物や各種メディアのネットワークなどを通じて情報を把握している。

Q.その担当はどこか? その情報は公開しているのか。

A.環境・安全技術部ならびに各地域の駐在員を中心に、インターネットや各種ルートを駆使して情報を集めている。関連するサプライヤーの方々には、法規情報や日産技術標準規格の形にまとめて提供している。一般には公表していない。

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◇車からの化学物質暴露について

Q.新車を買ったとき特有な臭いがする。私は好きなのですが、新車による曝露について調べていますか。

A.やっている。住宅で問題になったシックハウス症候群に関する情報も把握している。車内にはシートクロス、ビニールカバー、カーペットなど金属以外の物質で出来ている部品はいろいろあるが、現在は揮発性物質を極力使わないようにしている。新車の臭いは 10年前に比べて少なくなっている。

Q.かつて自動車のブレーキに発がん物質であるアスベストが使われていたが、今どうなっているか。

A. 1992年末に全廃した。

Q.自動車の排ガスの成分のことは環境報告書には出ていないが、日産として独自にどういう排ガスが出ているか調査しているか。

A.微粒子は測定が難しい。ナノ粒子は研究しているが、現状ではまだ研究室レベルでのこと。自動車業界でも外部に委託研究している状態。

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◇村山工場跡地のダイオキシン汚染処理について

Q.日産村山の工場跡地に高濃度のダイオキシンが検出されたと新聞で見たことがあるが、その後どういう処理がされたのか。

A.村山工場の跡地の対応については、「環境・社会報告書 2002年3月期」 29ページに記載しているが、土壌汚染の調査結果を経過を含め公表しており、浄化対策を取ってから売却している。

Q . 浄化費用は公表しているか。

A . 問題の本質は、いくら費用がかかったのかではなく、適切な浄化対策を責任を持って実施したか否かである。その経過と結果情報は公表している。

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◇PRTRの情報提供について

Q.非点源(自動車)の排出量、移動量について環境省のやり方はエイヤー!と大ざっぱに推計しているように思われるが、日産の場合も同じやり方なのか。それとも自動車業界で外部に委託されているのか。

A.日産のやり方は自動車工業会で統一した方法。環境省のやり方は、大気測定で見ても、そのときの風の状況で測定結果が随分違ってくる。どちらが正しいかというよりも、今後連携を取りながら、どうやって精度をよくするかが大事だと思う。

Q.日産が環境報告書で提供しているPRTR対象物質のデータは、国より多い情報が提供されている(取扱量、自社埋立、化学変化、製品への移動など)。その読み方について教えてほしい。

A.「環境・社会報告書 2002年3月期」 51ページにある追浜工場のPRTR対象物質のデータ表を例に説明すると、一番左の「取扱量」が車を生産する際に使用する材料(化学物質)のインプットの合計、次の6つの項目がアウトプットの内訳になる。順番に説明すると、環境中への排出は「大気」と「水域」、土壌への排出については外部に委託する場合は「廃棄物として移動」、自社処分場に埋立てる場合は「自社埋立」の2つに分類している。

次が廃棄物として発生したが廃棄せず再生して使用するものを「リサイクル」、製造段階で別の物質に変わったものを「化学変化」とし、クルマの原材料として製品に移行するものを「製品」として区分している。例えば、塗装で言うときれいに塗るためにはどうしてもムダになったものも当然あるわけで、きれいに塗れた分が「製品」、クルマの塗面には塗れなかった分が「廃棄物」になるといったイメージで考えて戴くと分かりやすいと思う。

国が定めている項目はこれらのベースデータを計算して算出している。

Q.表のヨコの項目にあるダイオキシン類の読み方について、タテの項目にある水域が0となっているのは、ちょっと疑問に思うが。どこまでつかんで、0という結果が出たのか? 処理がクローズドでやっていればいいんですが。大雨が降ったとき流出しないのか。

A.汚染は0です。ただ、台風のような大雨が降ったときに焼却していないかどうかまでは明確に把握していないので。

Q.工場の中から外へ出ていくものがある。そういうものを全部把握されているのか。

A.車を生産する際に直接使用する材料と、設備の洗浄に使う溶剤のように間接的に使用する材料をPRTRに集計している。使用量の関係から食堂の床を掃除する洗剤などは含まれていない。詳細は小職では回答が不十分かもしれないので、ぜひ工場見学に来て具体的にご覧になってください。

Q.自社処分されたものの中に焼却灰も入っているのか。

A.自社処分場の有無による。追浜工場の場合は近隣に持っている自社処分場に埋立している(この場合、「廃棄物として移動」ではなく「自社埋立」に分類)。

Q.PRTRで地域とのコミュニケーションはしているのか。

A.PRTRを地域の人々に浸透させていくことは難しい。一般の方々にはPRTRはデータの羅列のままではほとんど解らないのではないかと思う。栃木工場では地域の方々を対象に、弊社の環境への取組みを理解して戴くために環境施設見学会を実施している。まずはこのような機会を増やしていくことから始まるのではないかと思っている。その際クルマを生産する設備と環境保全設備をセットで見てご理解いただくのが分かりやすいのではと思う。そういう意味でもコミュニケーションは大事だと考えている。

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◇その他

Q.カルロス・ゴーンさんが社長になった前と後でどう変わったか?

A.環境方針は基本的に変わってない。従来から企業のアカウンタビリティ(責任)、トランスペランシー(透明性)とコミュニケーション(相互理解)の充実は図ってきている。社長のカルロス・ゴーンが企業改革したのは、経営面の目標設定と実行領域である。もちろん、カルロス・ゴーンも環境への配慮の意識を充分に持って経営している。

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【関連リンク】
日産自動車

この学習会は、平成14年度環境事業団地球環境基金の助成を受けています。