2002年8月10日 PRTR制度の最新動向(2)
経済産業省に聞く
 

学習会当日は、経済産業省化学物質管理課の他に、経済産業省研究開発課や 製品評価技術基盤機構化学物質管理センター(NITE) からも担当者が来てくださいました。ありがとうございます。

1. 経済産業省の化学物質行政に関係する部局とそれらの役割分担

経済産業省製造産業局化学物質管理課 課長補佐 浦上健一朗

 最初に、製造産業局化学物質管理課課長補佐の浦上健一朗さんから化学物質管理課を中心とした、経済産業省の化学物質行政に関係する部局とそれらの役割分担についての話があった。

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2. 化学物質総合管理政策研究会の中間とりまとめ

経済産業省化学物質管理課 化学物質安全室長 野中哲昌

 化学物質総合管理政策研究会とは、同省の製造産業局次長の私的諮問機関として、今年 4月から7月まで開かれて、7月22日にその中間とりまとめが出された。PRTR制度の開始等の新しい動きを受けて、化学物質総合管理の新たな制度・枠組の方向性を出すことを目的として開催された。

このとりまとめでは、
      (1)化学物質の有害性・曝露・リスクの評価等に係る取組の強化
      (2)自主管理の改善を促す枠組整備の推進
      (3)「生態毒性物質」に関する取組の強化
などが提言されている。

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3. PRTR制度の最新動向     

経済産業省化学物質管理課 村越正毅
経済産業省化学物質管理課 浦上健一郎

 届出数は、7月1日現在で都道府県に事業所数で約3万件(予想では2万件)、所管大臣へは約7500件。書面が9割、電子情報は1割。届出の9割は経産省所管の事業者からのもので占められている。

 電子情報はCSV形式で提供する予定。集計は化学物質、都道府県、業種の組み合わせで、A4で3.3万ページ、276,000KBになり、CD-R1枚に入る。開示請求は各主務大臣宛てでも可能だが、全体の情報を把握している経産大臣か環境大臣あてに行ってもらえれば、スムーズに対応できる。全データはCD-R1枚では1090円だが、印刷すると1枚20円で30万円にもなる。全データ請求の方が手間がかからず、安くなる。

 都道府県を届出の経由先としたことは、対象事業所の把握と普及啓発を進め、データの精度を高めることにつながって、正解だった。

 営業秘密請求には厳しい基準を策定したので、本年度の請求はゼロだった。

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4. 質疑応答

Q 生態系への影響の「未然防止」と言う言葉が出ているが「予防原則」とはどうちがうのか。
  企業の自主管理に任せるのは、食品での事件を見ると疑問だ。制裁措置や情報開示、外部監査等が必要なのでは。
  杉並病に関する公害等調整委の裁定では、原因物質を特定できなくても対応しているが。

A 予防原則という言葉を使っていないのは、一口に「予防原則」といっても、その意味するところが十人十色だから。 1992年のリオ宣言での「予防的アプローチ」を適用するのは当然であり、「未然防止」という言葉にもその趣旨は含まれていると理解している。リオ宣言以前(1974年)に制定された「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)は世界に先駆けて事前審査制度を創設し、「予防」の考え方を先取りしている。一方で、科学的根拠を一切もとめないまま漠然とした不安だけで規制措置等の対策をとるのはやりすぎだ。
  企業の自主管理への不信感は、情報開示して透明性をもたせた中でやっていくことで防げる。 NGOには自主管理推進に参加していって欲しい。どんな立派な法律があっても、悪意で法を破る企業は止められない。一部に法を守らない企業があるからといって、大部分のまじめな企業まで一律に論じるべきではないはず。
  杉並病や化学物質過敏症のように原因が特定できないが被害が出ている場合は、その軽減のための対策は必要だ。それは中間とりまとめの中には書かれていないが、議論はあった。対策はケースバイケースではないか。

Q 中間とりまとめの中で、化審法で生態毒性についても対応するということで、事前審査制へ取り入れるとあり、一方でただちに「直接規制を導入することは適切でない」とある。その関係は。さらに検討するとすればいつどこで行なうのか。生産量が少ない化学物質については化審法の審査対象外にするという記述もあるが、 1トン以上を100トン以上に緩和するということなのか。また、「セーフティネット」とは具体的に何を意味するのか。

A この部分が役人言葉で分かりにくいとのご指摘をよく受けるので、詳しく説明したい。化学物質の「生態系そのもの」への影響を考えるのか、「個別の生物種」への影響を考えるのかという点について、中間とりまとめの2つのパラグラフがそれぞれ別の前提に立って整理をしている。前者の場合については、化学物質が「生態系」という複雑なものに対していかなる影響を与えているかは必ずしも科学的に明らかになっていないので、「ただちに直接規制を導入することは適切でない」としている。ただし、その場合であっても、「事業者の自主管理を促す枠組整備を進める」ことが必要であるとしており、国として何もしないということではない。一方、個別の生物種に着目した化学物質の影響については、リスク評価に基づくリスク管理を行うこともできる。その際に具体的にどういう審査や規制を行なうかは結論が出ていない。この中間報告へのパブリックコメントをとり、省内で議論を進める。方向性がまとまれば、審議会の場で検討を進めてもらいたいと考えている。
  現在は年間使用量 1トン以下は事前審査の対象となっていないが、単純にこの「すそ切り」を上げるというのではなく、「セーフティネット」の構築が大前提となる。「セーフティネット」としては、審査対象となっていないものでも、問題があった場合は報告を求めることでチェックできるようにすることを想定している。

Q 既存化学物質の評価の責任は、事業者にあるということか。また、「セーフティネット」として、事業者にインセンティブを与える仕組は考えているか。

A 化審法で規定している以外の有害性評価項目も、事業者に自主的にやってもらう。国の方も進んでいないという批判はあるにしろ、化審法で規定している有害性項目を中心に、引き続きやっていく。事業者が試験を行った場合、国では、重複して試験をやらず、事業者がやったもので判定する。
  「セーフティネット」の具体的な内容については検討中。インセンティブをもたせる方法についても具体的に議論していない。アメリカの TSCAには、有害性情報を事業者が自ら把握した場合、企業は国への報告を義務づけられており、そうしたそうした制度を参考にしていきたい。

Q リスクコミュニケーションをどうとらえるか。どうやって取り入れていくのか。

A 研究会で意見は出たが、つっこんだものにはならなかった。今後の検討課題だ。私見では、ケースバイケースでの対応をすべきであり、あらかじめ決まった方法論を機械的に適用すればよいものではないと思う。透明性のある情報公開をもとに、利害関係者が冷静に意見交換をする。事業者としても手探りの状態だと思うが、そうした地道な積み重ねの中で、いかなる対応が適切なものかが見えてくるのではないか。

Q 省庁の壁を越えてリスクコミュニケーションの具体的事例を提供してほしい。

A PRTRの都道府県から各省庁にあがってきたデータはNITE(製品評価技術基盤機構化学物質管理センター)に委託して電子化をし、内容のチェックをしている。NITEにおいては、リスクコミュニケーションについての技術基盤を整備してもらいたいと考えており、関連する知見についても、NITEを中心に省庁の壁を越えて情報を集めるようにしたい。

Q 国の公表データと、事業所ごとのデータの双方がほしい場合は、 CD-Rが2枚で2180円かかるのか。また、開示請求は、地方在住の人はどのようにしたらいいのか。

A 国の公表データは有料となっていないので、インターネット上での公表などを考えたい。ただし、公表データと全事業所の開示データとは一枚の CD-Rに入りそうなので、それらをパッケージにした提供も考えたい。いずれにせよ、CD-R2枚なので手数料は倍、ということにはしない。また、わざわざ役所に来訪せずとも、郵送での請求が可能である。
開示された媒体にライトプロテクトをかけるかどうかという議論が内部であったが、開示請求をした人が情報を好きにつかえるというのが制度の主旨なので、かけないこととしたい。開示請求した人がデータを独自に公開したらそれを制度上は止めることができない。

Q 化学物質総合評価プログラムというのは、どのようなものか。

A 国が NEDOに委託している化学物質のリスク評価手法の研究のことだ。中西準子先生がリーダーになっている。 PRTR対象のいくつかの物質について、曝露評価とハザード評価を行い、リスクを評価する 。プログラムとは、研究開発プロジェクトのことで、ソフトのプログラムのことではない。

Q データを集める時に始めから電子データでやれば作業が楽になるのでは。
  「営業秘密」への厳しい基準というのはどういうものか。

A 事業者がオンラインで届出をするシステムはすでにある。現時点で余り普及していないのは、事業者が紙ベースで内部決裁をとっているケースが多く、事業者自身がオンラインで届出をしたがらないということも一因。ちなみに、アメリカでは 75%が電子情報で提出されていると聞いている。
  営業秘密を認める条件は、(1)排出量が営業秘密に関連性がある、(2)事業者がきちんと秘密を管理している、(3)秘密に営業上の価値がある、(4)特許等で世に明らかにされているものではないこと。これをクリアするのは難しい。

Q 全体で 3万件あり、省庁にあがっているのが7500件。このギャップはいつ埋まるのか。

A 現時点では予定より遅れ気味だが、都道府県の担当者が必死で努力している。最終的な集計・公表は年末までに間に合わせたい。

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